家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 でも明莉はさらっと否定した。

「そんなことないよ。ミカくんと話すと落ち着けたもの。白檀の香りの効果もあっただろうし……」

 それで前に言ってくれたことを、改めて言う。

 巳影はその言葉に、ほっとできた。

「そうだった」

 肯定すると、明莉はさらに違うことも言った。

「前にミカくんの実家にご挨拶に行ったとき、感じて懐かしくなったの。ああ、この香りを感じると、穏やかだったり、落ち着いたりした気持ちになれたな、って」

 もう数ヵ月前のことだ。

 結婚の報告のために、明莉が祖父・辰巳の屋敷を訪れてくれた。

 巳影が昔、住んでいた家だから、もちろん明莉はあのときと同じ香りを感じ取っただろう。

 そうして改めて言ってくれるから、巳影は喜びと、改めてのくすぐったさを覚えた。

「それなら良かった」

 懐かしい話に花が咲いたが、思い出したことで、巳影の中に、明莉への想いがさらに溢れた。

 昔、ほのかな想いを抱いた相手は今、自分の目の前にいてくれる。

 そして今は向こうからも想いを寄せてくれるのだ。

 なによりの幸せだと思った。