家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

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 中学校の同級生として過ごしていたあの頃、部活の時間。

 明莉と話すうちに、香りについての話題になった。

 当時の巳影は人見知りの面があったから、内心気にしている明莉と二人きりで話せて、どぎまぎしていた。

 なのに明莉はなんでもなく、普通に話してくれたのだ。

 話すうちに、明莉が少し前に部活の一環で行った『聞香』について話した。

『面白かったから、もっと詳しく知ってみたいな。和風でも、洋風でも、香りを楽しめるものはたくさんあるから』

 そう言った明莉の言葉で、巳影は自宅にあるものを思い出した。

 だけど、ためらった。

 自分から女子に対してこんなアクションを取るのは、初めてだったからだ。

 でも明莉が興味を示していて、そして自分が力になれそうなものがあるのだ。

 だから思い切った。

『あ、あの。祖父の書斎に、そんな本がある……。良かったら、借りてこよう、か?』