家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 つい先日失業したが、職場が建築会社だけあって、明莉には余計に馴染みがある会社だ。

 まだ二十八歳……明莉と同い歳……だというのにあまりに出世が早いと明莉は思ったのだが、女社長を務めていた母が早逝したために、早々と社長を継ぐことになったのだという。

 現在は相談役である祖父に力添えを受けつつも、順調に業績を挙げているらしい。

 でもそんな彼の素のスタイルを見て、明莉はなんとなく、見覚えがあるような錯覚を覚えた。

 やわらかめの髪、ふわっとして、優しい質感……。

(あの夜に初めて会ったと思うんだけど、なんだろうな?)

 自分の体が察知する不思議な感覚に戸惑ったが、今は引っ越しについてだ。

「いえ、挨拶はきちんとしないといけません。これからお世話になります」

 改めて言い、頭を下げた。

 明莉も私服で、シンプルな形の膝丈ワンピースにカーディガンというスタイルだ。

 これから引っ越し作業をするので、動きやすい服を選んだのだ。

 先日、住んでいたマンションの退去連絡をしてきた。

 本当ならあと二ヵ月弱住めたわけだが、さっさとここへ引っ越してしまったのは、もちろんあの家に居続けるのが辛かったからだ。

 独りぼっちの家に住み続けても意味がない。

 孤独感を感じたくないから結婚を決めたのだし、それなら新生活を早く始めたほうが良い。

 彼からも「慣れるためにも、早いほうがいいだろう」と誘われた。

 そのあと「俺もきみを落とすために、なるべく早く一緒に住みたいからな」と言われて、だいぶ照れてしまったものだけど。

 それはともかく、そんな事情で急いで引っ越し作業を進めて、今日、引っ越してきたというわけだ。