家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 それで美花は室内へ入ってきて、スマホやハンカチなどの必要なものを集め始めた。

「よし、私もそろそろ出勤しないと」

 明莉は申し訳なくなってしまった。

 電話を気遣わせたために、遅刻させては悪い。

「ごめんね、待たせて。時間、間に合う?」

 だから聞いたけれど、美花はにこっと笑った。

 少し急いだ様子はあるものの、支度をする手つきは的確だ。

「うん、まだ大丈夫。私がいなくても、家の中のものは好きに使って。タオルでも、メイク道具でも」

 なにもかも気遣ってもらって、明莉は喜びと恐縮を同時に覚える。

 だから手を膝に置いて、深々と頭を下げた。

「本当にありがとう。無事に済んだらお礼をするね」

「いいってば。じゃあいってきます!」

 でも美花は優しい笑顔で否定するのだ。

 あまりに大きな優しさと友情に、明莉は胸を打たれたくらいだ。

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 玄関まで美花を見送った。

 そして美花が出ていってからは、美花がマンションを出て、ちょっと急ぎ足で歩いていくのを窓から見ていた。

 美花と巳影、二人のおかげで明莉の気持ちはすっかり落ち着いた。

 今日一日は美花の家にいさせてもらうけれど、きっと明日、巳影が帰ってきたら、すべて解決することだろう。