家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています

 慌てたのは父だ。

「おいおい、そんなふうに言わなくたっていいだろう」

 でもかえって嬉しかったので、明莉も笑ってしまいながら、「気に入ってもらえて嬉しい」と返した。

 そして旅行についての想い出話を、改めていくつかしたのだが……。

「……そういえば、明莉がお土産を渡しに来た日、ちょっと気になる人を見たわ」

 母が『思いついた』という顔で切り出した。

 いきなり別の話題になったので明莉は不思議に思う。

 その明莉を見る母の顔は、少し心配そうなものになる。

「ええ。男の人だと思うんだけど……。明莉が来たとき、向かいの路地にいて、帰るときは横のお宅のところにいたから、『あれっ、また……』って思って」

 そこまで聞いて、明莉はドキッとした。

 秋の初め頃に、同じようなことを聞いたからだ。

(美花と会った日に、カフェで同じようなこと、言われた……)

 ちょっと不安が湧いてくる。

 また同じような状況が起これば当然だ。

「どんな人? 私の知り合いかな?」

 そわそわしながら聞いた。

 知り合いでも、こんなふうにこそこそするのは不自然だが、とりあえず、その可能性はあると思ったからだ。