普通じゃ満たされない夜

「え、タクヤってめっちゃ優しくない?」

学食で友達にそう言われて、私は曖昧に笑った。

「うん、まあね」

「いいなあ。ああいう安定してる彼氏、結局いちばん良くない?」

“安定してる彼氏”

その言葉が、なぜか引っかかった。

タクヤは本当にいい彼氏だ。
連絡もまめで、女の影もなくて、私を不安にさせることもない。

それなのに。

放課後、カフェで向かい合って座っている時。

「ミオ、これ好きでしょ?」

私より先に注文を決めるタクヤ。

「……うん」

嬉しいはずなのに、
なぜか少しだけ息が詰まる。

私が好きそうなもの。
私が喜びそうなこと。

全部、ちゃんと分かってくれている。

でもそれは、
“今の私”じゃなくて
“タクヤの中の私”な気がした。

帰り道、手をつながれる。

いつもなら安心するのに、
今日はなぜか、心が静かすぎた。

夜。

私はまた、あのページを開く。

そこにあった言葉。

「正しい恋愛が、君を生かしてくれるとは限らない」

心臓が、強く鳴った。