キスしない約束の恋

 ――なんで、あんな顔するんだよ。

 

 昼のことが、頭から離れない。

 

 泣いてた。

 

 あいつが。

 

 俺のせいで。

 

「……はぁ」

 

 廊下を歩きながら、舌打ちする。

 

 いつもなら、気にしない。

 

 泣こうが、怒ろうが。

 

 関係ない。

 

 そういうもんだって、思ってた。

 

 でも。

 

 今回は、違う。

 

 

「神崎くん」

 

 

 呼び止められる。

 

 

 振り向くと。

 

 

 昼の、あの先輩。

 

 

「さっきの子、何?」

 

 

「……別に」

 

 

「別にってなに」

 

 

 近づいてくる。

 

 

「珍しいよね」

 

 

 じっと見られる。

 

 

「神崎くんが、手出さないとか」

 

 

「……」

 

 

「どうしたの?」

 

 

 軽く腕に触れてくる。

 

 

 いつもなら。

 

 

 そのまま流す。

 

 

 でも。

 

 

「……もうやめる」

 

 

「え?」

 

 

「こういうの」

 

 

 先輩の手を、軽く外す。

 

 

「は?」

 

 

「全部」

 

 

 はっきり言う。

 

 

「終わりにする」

 

 

 

 空気が、止まる。

 

 

 

「……何それ」

 

 

 笑ってる。

 

 

 でも、目は笑ってない。

 

 

 

「急にどうしたの?」

 

 

 

「別に」

 

 

 

「飽きた?」

 

 

 

「違う」

 

 

 

 一瞬、言葉が詰まる。

 

 

 

 理由なんて、うまく言えない。

 

 

 

 でも。

 

 

 

「……ちゃんとしたいだけ」

 

 

 

 それが、本音だった。

 

 

 

「は?」

 

 

 

 呆れたように笑う。

 

 

 

「何それ」

 

 

 

「意味わかんない」

 

 

 

「いいよ別に」

 

 

 

 くるっと背を向ける。

 

 

 

「どうせすぐ戻るでしょ」

 

 

 

 吐き捨てるように言って。

 

 

 

「つまんない」

 

 

 

 そのまま、去っていった。

 

 

 

「……」

 

 

 

 静かになる廊下。

 

 

 

 スマホを取り出す。

 

 

 

 通知。

 

 

 

 何人もの名前。

 

 

 

 全部。

 

 

 

 スクロールして。

 

 

 

 止まることなく。

 

 

 

 消していく。

 

 

 

 ――もういい。

 

 

 

 全部。

 

 

 

 終わらせる。

 

 

 

 あいつの前で。

 

 

 

 あんな顔、二度とさせないために。

 

 

 

 

 ――放課後。

 

 

 

 校門の前。

 

 

 

 見つける。

 

 

 

 小さく、立っている背中。

 

 

 

「シロ」

 

 

 

 声をかける。

 

 

 

 びくっと、肩が揺れる。

 

 

 

 

「……帰るぞ」

 

 

 

 隣に立つ。

 

 

 

 でも。

 

 

 

「……ひとりで帰れます」

 

 

 

 距離を取られる。

 

 

 

 

「なんで」

 

 

 

「……」

 

 

 

 答えない。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 はっきりと、拒まれている。

 

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

 それ以上、何も言えなかった。

 

 

 

 初めてだった。

 

 

 

 こんなふうに、距離を取られるの。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 追いかけなかった。

 

 

 

 ――今は、まだ。

 

 

 

 

 その資格がない気がした。