婚約者の浮気が発覚したので、街の中心で「誰か私を貰って!」と叫んだら大物が釣れました

 ──僕は、女性に殴られたのは一度や二度じゃない。下手に誤解を解くのも面倒だし、殴って憂さが晴れるならそれでいいと黙って殴られてきた。女性が殴る力は知れているしね。

「……お前、そのうち刺されるぞ?」

 両方の頬を赤く染めた僕を呆れた眼で見ているのは、騎士団長のテオドラ・サルシド。一番の理解者とも言える。

「その時はその時ですよ」

 平然と答えながら、手にしている書類に目を通す。

「しっかし、一日に二人の女に殴られたのか?見事なもんだ。綺麗な顔が台無しだな」
「箔がついたでしょう?」
「お前なぁ~…」

 テオドラが溜息を吐くのも致し方ない。

「いい加減身を固めろ。このままじゃマズイって事ぐらい頭のいいお前なら分かってるだろ」
「……さあ?」

 少しの間を空け、わざとらしく首を傾げて見せると胸ぐらを掴まれながら凄まれた。

「いい加減にしろよ。このままだと国王陛下(お前の親父)の都合のいいように扱われるだけだぞ!」
「……」

 僕の父……国王陛下の若い頃も、同じように女性関係が派手だと聞いていた。血は争えないと母は笑うが、父は『世間体が悪い』と自分の事を棚に上げては批判してくる。

 その都度『今と昔では事情が違う』だの『俺はお前ほどでなかった』などと、保身の言葉ばかり並べてくる。

(いい加減にして欲しいのはこちらの方ですよ)

 周りの重鎮達も、僕の事を煙たがっているのは知ってる。今は首の皮一枚で王太子の座にいるってだけ。

 こんな堅苦しい肩書き、鼻っから望んじゃいない。

 どうやら、僕は近々隣国の女王陛下の元へ婿入りさせられるらしい。噂では見目麗しい男を檻に閉じ込め、コレクションのように集めては鑑賞する性的嗜好の持ち主だと聞いた。随分前から僕は彼女に目をつけられていたらしく、僕を差し出す代わりに彼女の国から資源提供が得られる事になっている。

 テオドラは、そんな僕を心配してくれている。

「……知ってますか?僕が婿入りした後、席の空いた王太子の座に据えられるのは君らしいですよ?テオドラ」

 含みのある笑みを向けると、鋭く光る眼で睨まれた。

 国王夫妻の間に子供は一人だけ。僕がいなくなった後は、人望も厚い騎士団長のテオドラを養子に迎え、空いた穴を埋める手筈になっている。

(用意周到過ぎて、もはや笑えて来ますね)

「最初に言っておくが、俺はお前以外の元に付く気はない」
「叶わない願いは口にしない事ですよ」
「……お前は俺を路頭に迷わす気か?」
「おや、騎士団長から王太子に昇進なんて、そうそう出来ることじゃない」
「リオネル!」

 大きな声で怒鳴られ、息を吐きながら「冗談です」と伝えた。

 テオドラの気持ちも分からないでもないが、今更どうしろと言うのか……

「ここら辺が潮時なんですよ」
「まだ決まっていない。己の為じゃなくていい。俺の為に抗って見せろ」
「ははっ、それは随分と傲慢な要求だ」

 根強く染みついた印象と言うのは、そう簡単には覆らない。抗ったところで結果は見えている。

『誰か私を貰って!』

 ふと、昼間に出会った娘の事を思い出した。

 僕の正体を知っても自分の我を通す強い瞳に、一切媚びることのない物言い。外見や権力ばかり見ている女性らとは違い、僕を一人の男として見てくれたのは彼女が初めてだった。

 どこの誰なのかは分からない。けれど、彼女に会えば何か変わる気がする。

「……テオドラ、探して欲しい娘がいます」
「なに?」
「最後の火遊びですよ」