光王子と月夜のシンデレラ

波の音、汽笛の音、ビジネス街を行きかう人々の喧騒、対比するような俺たちの沈黙、そしてまだ夏を感じない冷たい夜風……やっぱり屋形船は寒いよな。
全てが心地よくて、少し吐き出せたようでスッキリして……ただ今は静かにこの空間を感じていたかった。

だからもう、俺は何も言わなかった。
彼女は隣で、例によってブツブツと「私は別に目指さなくていいんですよ……無理ですよ」なんて繰り返している。


ゴーンゴーン――

5分くらい経っただろうか。
昨日同様、港町に21時を告げる鐘の音が聞こえる。
気づけば隣の遊園地の賑やかなライトアップも消灯しているところが多くなっていた。

「そろそろ帰るか」
「はっはい!鐘が鳴りましたもんね」
「ふっ……やっぱりシンデレラか」

鐘が鳴らなかったら俺は帰ろうと声をかけなかったのか。
考えたところでどうもしないので、俺はその疑問を頭からかき消し歩き出す。


駅へ向かって歩いている時、佐倉さんに聞かれた。

「そういえば……今日のあの会場を知っていたのですか?最後に出る時、非常口を知っていたので……」
「あー……あのギャラリーというか、鑑賞会の開催者が俺のじいちゃんなんだよ。あの会場には小さい頃から何回も行ってるから、それで知ってた」
「へー……そうだったんですね」

美術商兼あのホテルの出資者のじいちゃんのそばにいたから、お金や権力しか見えていない汚い人間たちを何人も見てきた。
だから、彼女のこの反応は新鮮だった。
質問の答えが返ってきたからもうそれでいいのか、ただ単に興味がないのか。

どちらにせよ、それだけで彼女は他に何も言わなかった。
それ以降は、何でもない会話をして帰路につく。

「そういえば……今宮くんは嫌いな食べ物ありますか?」
「……ネギ」
「な、なるほど……ナポリタンに入れなくてよかったです」

本当に何でもない会話だな。