知らない姉

 これは、ある不動産管理会社で働いている知人から聞いた話です。

 管理物件に入居している20代の女性から、ひどく怯えた様子で電話がかかってきたそうです。

「さっきマンションの管理人さんから『合鍵を預かっている』って連絡があったんですけど。私、鍵なんて落としてないんです」

 詳しく話を聞くと、彼女のスマホにマンションの管理事務所から、こんな電話があったといいます。

「あなたのお姉さんと名乗る方が、あなたが道で落とした鍵を拾ったと言って届けに来てくれました。今、受付で預かっています」

 しかし、彼女は一人っ子で、姉なんていません。
 気味が悪くなった彼女は「そんな人は知らないし、鍵も手元にある。絶対にその人に返さないで!」と電話口で訴えました。

 数分後、再び管理人から着信がありました。

「すみません。電話している隙に、『やっぱり本人に直接渡します』と言って、鍵を掴んで立ち去ってしまいました。追いかけたんですが、もう姿がなくて……」

 彼女は怖くなり、その日は友人の家に泊まりました。
 翌朝、警察に同行を依頼し、自分の部屋へ向かいました。

 ドアには、こじ開けたような傷はありませんでした。
 部屋に入って確認しても、何かが盗まれたような痕跡もありません。
 ホッとしかけたそのとき、警察官が冷蔵庫に貼られたメモに気づきました。

『鍵、ちゃんとポストに戻しておいたよ。
 あと、冷蔵庫におかず入れといたから、食べてね。
 お姉ちゃんより』

 冷蔵庫を開けると、そこには本当に惣菜の入ったタッパーが入っていました。
 そのおかずの見た目は、実家の母親が作るものと全く同じだったそうです。

 結局、犯人の女は捕まりませんでした。
 ただ、防犯カメラに映っていたその女は、彼女が普段着ているものと全く同じブランドの服、同じ髪型、同じバッグを身につけて、楽しそうにマンションの廊下を歩いていたそうです。