奇祭かかし祭り

フミ子さんとヨシ子さんは、今年も村の公民館前のベンチに二体のかかしを並べた。
秋祭りのイベントの一つ、かかし祭り。

ヨシ子さんは顔の仕上げが特に上手い。目尻の小じわまで、丁寧に描き込む。フミ子さんは小物を一工夫するのが得意だ。帽子をかぶせたり、眼鏡をかけさせたり。
「リアリティーを出したいから、本物を使うんだよ」
そう言って、優しげな手つきで女性の前髪をピンで留めた。

「今年も誰か来てくれるかねぇ」
「去年は、久しぶりに……」
「ああ、あの子らは、べっぴんさんじゃった。 腕時計もピカピカで」
「お肌もツルツル。モデルさんみたいな子はハイヒールでなぁ」
「取材、かかし祭りの宣伝になりますよ!なんて言ってくれたんじゃが」
「まぁ、ここに人が来ないのは、しかたない」
老女たちは手を止め、お茶をすすった。

オカルト系動画チャンネル『ハイパー都市伝説ボーイズ』明と雄二の二人組ユーチューバー。
「ちわぁ!今日は『奇祭?神秘の隠れ里、伝統のかかし祭り』に潜入捜査!」
「コメントで情報ありがとね」
「最後まで見て、チャンネル登録よろ!」
車内では雄二がカメラに向かってしゃべり倒す。
「あれぇ、カーナビの調子イマイチ。え? スマホの地図も、なんかボケてて」
「ハハハ、ド田舎すぎ!」

ぐるぐると山を登り、たどりついた先。降り立てば、さわやかな秋風が吹き抜けた。
青空と黄金の稲穂の田んぼが美しい村。
さっそく、カメラ片手に配信する。
「懐かしき、昔ながらの日本の風景ってやつだよ!」
「すげー、リアルなかかし!美人!」ベンチに座っている二人組のかかしだ。
「昔のへのへのもへじのかかしとは別物!」
作り物めいたガラス玉のような目、サラサラした髪。唇には艶。

騒いでいると、おばあちゃんたちが近づいてきた。
「おばあちゃんたち、すっげー、親切なんですよー」
「うちにごちそう食べに来いって」
「なんと風呂も入っていけって。服の洗濯もしてくれるって……いやぁ、田舎の温かさって最高ですね!」二人は笑いながら配信を続けた。
「続きは夜にねー!」
その夜から、チャンネルは突然更新を止めた。

「稲の神さま、きっと大喜びだよ」村は静かだ。
でも、寂しくはない。見渡せば、みんないるから。
フミ子さんはかかしの腕時計を優しく直しながら、にこりと笑った。
「いいね、今度の子は、カメラに自撮り棒かい」