主人公なんかじゃない

 ミナトくんシオンくんが帰宅し、タイガくんが頼んだデリバリーも届き始めたので、パーティーが始まった。
 物語の中のカラリスメンバーと、パーティーしている。
 こんなことあるの? って私は夢みたいな気持ち。ふわふわと体が浮かんでいるみたい!
 さっきまでしぼんでいたけど、目の前でカラリスメンバーがピザをほおばったり楽しそうにおしゃべりしたりしているのを見ているだけで、やっぱり楽しい気持ちになる。

「眞緒ちゃんて、カラリスの歌とか知ってる?」

 タイガくんが質問してくれる。

「うん、ぜんぶ大好きだよ!」

「へー! 好きな曲はなにー?」

 大きな目をかがやかせて、ハルトくんが尋ねてくる。

「えっと、『虹色のスタートライン』がいちばん好き、かな」

 曲自体は聴いたことがないけれど、歌詞は物語の中に出てくるからわかる。うまくいかない人を応援してくれるような歌詞が好きなんだ。

「僕も、いちばん好き……」

 シオンくんが、両手でジュースの入ったコップをぎゅっと持ちながらうなずく。シオンくんはおとなしい人ではあるけど、おびえた子犬みたいな雰囲気が人気のメンバーなんだよ。

「オレの自信作のひとつじゃん! さっすが眞緒ちゃん、見る目ある!」

 タイガくんが、顔を赤くしながらコーラを飲んだ。
 ミナトくんは話に入ることなく、もくもくとピザ、ハンバーガー、ポテト、お菓子を食べ続けている。これだけ食べているのに、ダンスはキレッキレだからすごい。
 聴いてみたいな、虹色のスタートライン……。どこかで聴くチャンスがあればいいな。
 ちらりと赤染くんを見る。私と目が合うと、スッと視線をそらした。

 うう、やっぱりさけられているかも……。

 あとでちゃんと話してみよう。心の内を知られているから気まずいと思っているんだったら、ちゃんと距離をとる! 赤染くんがイヤだと思うことはしたくないもん。

「そーだ! 眞緒ちゃん、今度オレらのライブに来てよ」

「え、ライブ!?」

 タイガくんの言葉に、私は目を輝かせて「行きたい!」と即答した……かった。でも、うぐ、と飲み込む。

「で、でもファンの人に申し訳ないよ……」

 物語の中のファンの子たちは、おこづかいを貯めたり親にお願いしてチケットを買ってもらったりして、ようやくライブに参加できる。しかも、カラリスのライブって抽選に外れて会場に入れないことも多いから、お金があってもライブを見られるとは限らないの。
 それなのに、特別扱いされるっていうのも、申し訳ない気がしてしまって……。

「気にしなくていいと思うよ」

 赤染くんの言葉に、私は顔をあげる。
「会場には、関係者席っていうのが用意されているんだ。関係者席って俺たちにまったく興味のない大人もたくさん来る場所なんだけど……正直、あの席ってあんまり好きじゃなくて。会場は満員なのに、関係者席は空席だらけってこともよくあるんだ。俺たちに興味のない大人たちが、つまんなそうに見ていることもある」

 赤染くんの言葉に、ほかのカラリスメンバーもうなずいた。

「だから、俺たちのことを好きでいてくれる子に、ひとりでも多く座ってほしいし、ライブを見てほしい。眞緒ちゃんが来たところで、ファンの人の席が減るわけじゃないから」

 真剣なまなざしに、私は反射的にうなずいてしまった。
 関係者席のこと、くわしく知らなかったけど、仕事上付き合いのある大人がむすっとした顔で見ているのかも……と思うと、あんまりよい雰囲気じゃないんだろうなっていうのは想像がついた。

「イオリの言う通り! だから気にせずカモン!」

 タイガくんが、元気よく言う。イオリ、って名前に胸がどきんとなる。いいな、赤染くんの下の名前を呼んでいて。もちろんメンバーなんだから当然だけど!

「じゃ、じゃあぜひお願いします」

「決まりだねー!」

「すっごく、楽しみ!」

 カラリスのライブが見られるんだ!
 そのときまで、どうか物語の中を行き来できますように。

「ところでさ」

 爆食していたミナトくんが口を開く。
 食欲が落ち着いたのか、食事の手を止めて会話に参加した。ミナトくんの前のテーブルを見ると……少なくとも、デリバリーピザのLサイズを二枚、ハンバーガーを五個食べたみたい。ポテトやお菓子も加えると、相当食べたよね。
 さすが!

「眞緒ちゃんて、カラリスの中では誰が好きなの?」

 ミナトくんに、真顔で聞かれた。
 そんな、ドストレートに聞かれても……!

「え! えっとぉ」

 私は目を泳がせる。正直に言えるわけない。

「僕も知りたいな……」

「オレも知りたいっ!」

「気になる気になるー」

 みんなも、興味津々の様子で私を見ている。

 どうしよう、カラリスみんなが好きって言うべき?

 赤染くんがいちばん好きって言うべき?
 ここで、赤染くんが好きって言ったら……ほかの四人は気を悪くしないかな? いや、でも私の推しでメンバーが気を悪くするほどの影響力なんてないか、私に。
 ぐるぐると考えてしまう。
 えと、えと……。

「みんな、そんなに問い詰めたらダメだよ、眞緒ちゃん困ってるじゃない」

 赤染くんがフォローしてくれた。

「えー。イオリは知りたくないのー?」

 ハルトくんが不服そうに言う。

「みんなの前では言いにくいんじゃないってこと。そうだ、ゲームしようよ」

 赤染くんが、ゲーム機を手に取り、大きなテレビに接続しはじめた。

「お! いいね! なにやる?」

「この前買ったパーティーゲームは?」

 ほかのメンバーも、ゲームに気を取られて、私の好きなメンバーの話は自然と消えた。
 赤染くん、気をそらすのがじょうずだな。
 ……カラリスメンバーが単純すぎるのかも?
 なんにせよ、私はほっとする気持ちで、ゲームでもりあがるメンバーの背中を見る。
 赤染くん、もしかして私が赤染くんのことがいちばん好きって、『ひまわりダイアリー』を読んで知っているのでは?
 だから、ちょっとそっけない態度になっているんじゃないかって気がしてきた。それなら、今みたいに話をそらしたのもうなずける。
 だとしたら、めちゃくちゃはずかしくない!? 好きバレちゃってるってこと?
 ぐるぐると考えて動かない私に向かって、シオンくんがリモコンを手にトテトテ歩いてきた。

「眞緒ちゃん、顔がまっかっかだけど、暑い……?」

 子犬みたいでかわいい……。

「ありがとう、だいじょうぶです」

 へへへ、と笑ってごまかす。だいじょうぶではないけどね。