主人公なんかじゃない

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 自分の部屋で、本を読んでいたはず。

 なんだけど、気が付いたら知らない家にいた。手に、本はない。
 本を読んでいる最中に眠ってしまったのかな?

 ここは、どこだろう?

 きょろきょろと見回してみる。だれかの、部屋みたい。おそるおそるドアをあけると、一軒家の二階の部屋みたいで、階段が下に続いていた。
 そっと降りてみる。
 ……なんだか、この風景を知っている気がした。
 階下には、リビングっぽい部屋があった。テーブルの下にはベージュのラグが敷かれていて、クッションがいくつも散らばっている。 

 どこで見たんだっけ……写真? ドラマ?
 立ち上がって、キッチンの方へ行ってみる。赤、紫、黒、ピンク、黄色のマグカップが水切りカゴの中に置かれていた。
 この五色、見たことあるような?
 頭の中に、カラリスの五人が浮かぶ。五人のメンバーカラーそのものだから。

 もしかして……これって夢?

 夢で、赤染くんたちのシェアハウスに来ちゃったってことかな?
 そう思うと納得できた。
 きっと、本を読みながら寝てしまったんだ。
 夢で自分の好きな世界に来ちゃうことはよくある。
 たとえ夢だとしても、カラリスメンバーの家にこられるなんてうれしい! せっかくなら、シェアハウスの中を見てしまおう。夢だから、不法侵入にはならないしね。

 私は大きな一軒家の中をウロウロと歩く。
 普段はカラリスの五人だけで生活していて、定期的に事務所のマネージャーさんが来たり、家事代行サービスの人が掃除や料理をしてくれたりするらしい。

「いいなぁ、大人のいないシェアハウス!」

 憧れるよね、子どもだけで生活するって。
 二階は、メンバーの個室があると物語に書いてあった。
 てことは、さっきの部屋はメンバーのだれかの個室ってこと?
 あの部屋は、だれの部屋? 夢とはいえ、勝手に見ちゃって申し訳なかったかも……。
 頭の中で、物語に書かれている家の間取りを思い浮かべる。
 そういえば、玄関脇には普段動画を撮っている防音室があるって書いてあった! 見てみたいなと思い、玄関のほうへ。
 カラリスは音楽活動のほかにも、バラエティ企画の動画も出しているんだよ。その動画もすっごく面白くて、つい何度も見てしまうの。

 赤染くんはすごく真面目な男の子だけど、その真面目すぎるところが妙に面白くて、メンバーにもイジられているんだ。
 その動画の撮影場所に来られるなんて、感激! 夢の中だけど!
 防音室と思われる場所の扉をあけようとすると……玄関のドアが、なんの予告もなくガチャっと大きな音を立てて開いた。

「わっ!」

 私以外に夢の中の登場人物がいるとは思わず、大きな声でびっくりしてしまった。
 玄関に目をやると……そこには、男の子がいた。怪しんでいる様子で私を見ている。
 背が高くて、すっごくきれいな顔立ち。だれに聞いても「イケメンだね」って言われるだろう。

「えっと、だれ?」

 透きとおった声。大きな声じゃないのに凛と響く。
 現実世界には、こんなすてきな人はいないよ。お肌もつるつるで、黒いつぶつぶも見えない。全身がキラキラと光をまとっているようで、なんだか眩しくかんじてしまうほど。
 そこに立っているだけで、目をひく男の子。
 どこかで見たことあるような……でも、こんなにかっこいい知り合いなんていない。
 だれだろう?
 知っている芸能人が頭の中をかけめぐる。その中で、さっき見ていた物語の表紙のイラストと、目の前の男の子の姿が重なる。
 似ている……。
 え、まさか……。

「赤染、イオリくん……?」

 思わず口をついて出た。
 イラストでしか見たことのないはずの赤染くん。でも、なぜか目の前の三次元の男の子が赤染くんだと思った。そんなわけないのに……。だって赤染くんは、小説の中のキャラクターなんだよ?
 でも、目の前の男の子は、小さくうなずいた!

「そうだけど。あなたはだれ?」

「えええええ!」

 そんなわけあるの!? 赤染くんなの?

 赤染くんを名乗る男の子。ほんのりと赤みがかった黒髪の前髪はいつも長くて、背が高くて、色が白くて、中学生にしては落ち着いてクールな低い声で……どの特徴を見ても、赤染くんそのものだった。
 赤染くんは物語の中の人で、現実には存在しないはずだよ。夢だから、私が三次元風にキャラクターデザインしただけだよ、ね。
 でも、目の前の赤染くんを見ていると、どうしても私がキャラクターデザインした夢の中の赤染くんとは思えない。だって、イラストには描かれていない小さなほくろがあるし、思ったよりも鼻が高い。あと、唇の色も想像より薄い。ちょっとずつ違う。
 混乱しすぎて、息が切れてきた。
 うっと胸をおさえる私を見て、赤染くんが心配そうにのぞきこんでくる。

「だいじょうぶ?」

 待って待って、近い!
 私はあわてて赤染くんから体を離した。

「だ、だ、ダイジョブです!」

 あんまりダイジョウブじゃないかもしれない! さらに呼吸が苦しくなる。
 だって……。赤染くんの息づかいを感じてしまった。夢なのに。

「君は、だれかの知り合い?」

「あ、えっとまぁ……」

 だれとも知り合いじゃない……とも言えず、適当にごまかした。

 ほんとうに、夢?

 ぎゅっとほっぺをつねると、痛い。夢にしては、意識がクリア。じゃあ、今の状況とは一体なに?
 じーっと、赤染くんの顔を見る。
 まさか、私が『カラリス☆ステージ!』の世界に入ってしまったとか?
 そんなわけ……。