赤染くんはどこにいるの?
楽屋には忍び込めないのはわかっている。でも、楽屋に行かないときっと会えない。カラリスの家で待っていれば会えるだろうけど、帰宅は夜遅くなるって言っていた。そんな時間までこっちにいたら、親にバレちゃう。夕飯までには、リカコの家から帰宅した……って設定にしないと。
私はあせる気持ちで、武道館の中を走り回る。どこにいるの? 今日が最後かもしれないのに。
もう夜五時を過ぎている。シェアハウスに戻ることを考えたら、そろそろタイムリミット――。
いやだ、このまま帰りたくないよ。
涙で、目の前がにじんでくる。泣いてる暇なんてないのに。はやく赤染くんに会わないといけないのに。
私は手で涙をぬぐって、しっかりと前を見る。
思ったより武道館は広くて、迷って迷って、気がついたら人のいない、倉庫みたいなところに入り込んでしまった。
舞台セットとかをしまう場所かな? 広くて冷たくて、ちょっと怖い。
ここに楽屋はなさそう……と思って引き返そうとすると、腕をぎゅっと掴まれた。
「きゃ!」
「ごめん、俺!」
聞き覚えのある声がすぐに聞こえてきた。
「赤染くん……!」
「よかった、探していたんだ。やっと見つけたと思ったのに、またどこかへ行こうとするから……」
さっきまで、ステージに立っていた赤染くん。アンコールのときのツアーTシャツにジーパン姿だ。
こんなラフなかっこうでも、すごくかっこいい……って、見とれている場合じゃない。
「リカコと仲直りできたの! 赤染くんたちのおかげです」
「ほんと! よかったぁ」
「それから、ライブすっごくよかった! 想像以上にかっこよくて、幸せだった! 生きててよかった」
うまく言葉が出ないけれど、せいいっぱい感想を伝える。
「ありがとう。眞緒ちゃんに褒めてもらえて嬉しい」
赤染くんは、優しい笑みを見せてくれた。
「それとね、リカコはシオンくんのこと、好きになったみたい」
その言葉に、赤染くんがはじける笑顔を見せた。
「やっぱり! リカコちゃんはシオンみたいなおとなしい犬みたいなキャラ、好きだから。あ、物語の中ではね」
「そうなの? 私は知らなかった」
恋バナとかしたことなかったから、まったく知らなかった。赤染くんに会わせたくないっていう、あの嫉妬心はむだだったんだね……。
やっぱり、『ひまわりダイアリー』を読んでいる赤染くんのほうが、リカコのことをよく知っているのかも?
それはそれで、ちょっとくやしい……って言っている場合じゃない、時間がないんだ!
言うべきことを、言わないと。
勇気を出して、言葉にしよう。
「あの……ね。私、また赤染くんに会いたい」
「俺も、眞緒ちゃんに会いたい。もっとゆっくり、今日の感想を聞かせてほしい」
ほっぺを赤らめながら、赤染くんが言ってくれる。その言葉だけで、寂しくてもつらくても、明るく生きていけるよ。
けど……喜んでいる場合じゃない。私は、視線を落とした。
「どうしたの?」
急に暗くなった私を見て、赤染くんが心配してくれる。
私は、顔をあげて赤染くんのことを見た。
「さっきリカコに言われたの。何度も物語の中を行き来できるの? って。それを聞いたら怖くなっちゃって。もう、会えないかもって」
私の言葉に、赤染くんも小さくうなずく。
「俺も……メンバーに言われたんだ。次もぜったいに会えると限らないよって。だから、楽屋を抜け出して探しに来た。メンバーが、時間稼ぎするからって」
「時間稼ぎ?」
「ライブのあとは、偉い人にあいさつしたり映像とったりいろいろやることあって」
「そうなんだ……じゃあ、急いで戻らないといけないね……」
私の言葉に、赤染くんは無言。
私だって、戻りたくない。戻りたくないけど、私たちにとって、これが現実でもある。
「また会えるよね。いつものように、本を開けば」
「きっと、だいじょうぶ」
言い聞かせるように、私たちはうなずきあう。
だいじょうぶって信じたい。でもだいじょうぶじゃなかったら。これが最後だって思うなら。
ちゃんと、言葉を伝えたい。
はずかしいとか、脇役の私なんかがって言っていたら、なにも伝わらない。
息を吸って、吐き出す勢いで言葉にする。
「あのね、私、赤染くんが……その、好き、です」
最後かもしれないと思うと、気持ちを隠せないし、隠したくなかった。
「……え」
「赤染くんは、私のこと好きじゃないと思うけど、私は赤染くんがいちばん好きで、ずっとずっと応援していて……ほかのメンバーも好きだけど、赤染くんは特別で」
メンバー全員、かっこよくていい人。でも、好きとはちがう。
赤染くんしか、見えない。
ステージ上できらきら輝いて、すごく遠くにいる人だってわかってしまった今も、好きの気持ちは消えない。
ずっとずっと、赤染くんが好きだよ。
赤染くんからしたら、ただの脇役かもしれない。でも私の物語の主役は、私だから。伝えたいことは言うんだ。
「私は、赤染イオリくんが大好きです!」
楽屋には忍び込めないのはわかっている。でも、楽屋に行かないときっと会えない。カラリスの家で待っていれば会えるだろうけど、帰宅は夜遅くなるって言っていた。そんな時間までこっちにいたら、親にバレちゃう。夕飯までには、リカコの家から帰宅した……って設定にしないと。
私はあせる気持ちで、武道館の中を走り回る。どこにいるの? 今日が最後かもしれないのに。
もう夜五時を過ぎている。シェアハウスに戻ることを考えたら、そろそろタイムリミット――。
いやだ、このまま帰りたくないよ。
涙で、目の前がにじんでくる。泣いてる暇なんてないのに。はやく赤染くんに会わないといけないのに。
私は手で涙をぬぐって、しっかりと前を見る。
思ったより武道館は広くて、迷って迷って、気がついたら人のいない、倉庫みたいなところに入り込んでしまった。
舞台セットとかをしまう場所かな? 広くて冷たくて、ちょっと怖い。
ここに楽屋はなさそう……と思って引き返そうとすると、腕をぎゅっと掴まれた。
「きゃ!」
「ごめん、俺!」
聞き覚えのある声がすぐに聞こえてきた。
「赤染くん……!」
「よかった、探していたんだ。やっと見つけたと思ったのに、またどこかへ行こうとするから……」
さっきまで、ステージに立っていた赤染くん。アンコールのときのツアーTシャツにジーパン姿だ。
こんなラフなかっこうでも、すごくかっこいい……って、見とれている場合じゃない。
「リカコと仲直りできたの! 赤染くんたちのおかげです」
「ほんと! よかったぁ」
「それから、ライブすっごくよかった! 想像以上にかっこよくて、幸せだった! 生きててよかった」
うまく言葉が出ないけれど、せいいっぱい感想を伝える。
「ありがとう。眞緒ちゃんに褒めてもらえて嬉しい」
赤染くんは、優しい笑みを見せてくれた。
「それとね、リカコはシオンくんのこと、好きになったみたい」
その言葉に、赤染くんがはじける笑顔を見せた。
「やっぱり! リカコちゃんはシオンみたいなおとなしい犬みたいなキャラ、好きだから。あ、物語の中ではね」
「そうなの? 私は知らなかった」
恋バナとかしたことなかったから、まったく知らなかった。赤染くんに会わせたくないっていう、あの嫉妬心はむだだったんだね……。
やっぱり、『ひまわりダイアリー』を読んでいる赤染くんのほうが、リカコのことをよく知っているのかも?
それはそれで、ちょっとくやしい……って言っている場合じゃない、時間がないんだ!
言うべきことを、言わないと。
勇気を出して、言葉にしよう。
「あの……ね。私、また赤染くんに会いたい」
「俺も、眞緒ちゃんに会いたい。もっとゆっくり、今日の感想を聞かせてほしい」
ほっぺを赤らめながら、赤染くんが言ってくれる。その言葉だけで、寂しくてもつらくても、明るく生きていけるよ。
けど……喜んでいる場合じゃない。私は、視線を落とした。
「どうしたの?」
急に暗くなった私を見て、赤染くんが心配してくれる。
私は、顔をあげて赤染くんのことを見た。
「さっきリカコに言われたの。何度も物語の中を行き来できるの? って。それを聞いたら怖くなっちゃって。もう、会えないかもって」
私の言葉に、赤染くんも小さくうなずく。
「俺も……メンバーに言われたんだ。次もぜったいに会えると限らないよって。だから、楽屋を抜け出して探しに来た。メンバーが、時間稼ぎするからって」
「時間稼ぎ?」
「ライブのあとは、偉い人にあいさつしたり映像とったりいろいろやることあって」
「そうなんだ……じゃあ、急いで戻らないといけないね……」
私の言葉に、赤染くんは無言。
私だって、戻りたくない。戻りたくないけど、私たちにとって、これが現実でもある。
「また会えるよね。いつものように、本を開けば」
「きっと、だいじょうぶ」
言い聞かせるように、私たちはうなずきあう。
だいじょうぶって信じたい。でもだいじょうぶじゃなかったら。これが最後だって思うなら。
ちゃんと、言葉を伝えたい。
はずかしいとか、脇役の私なんかがって言っていたら、なにも伝わらない。
息を吸って、吐き出す勢いで言葉にする。
「あのね、私、赤染くんが……その、好き、です」
最後かもしれないと思うと、気持ちを隠せないし、隠したくなかった。
「……え」
「赤染くんは、私のこと好きじゃないと思うけど、私は赤染くんがいちばん好きで、ずっとずっと応援していて……ほかのメンバーも好きだけど、赤染くんは特別で」
メンバー全員、かっこよくていい人。でも、好きとはちがう。
赤染くんしか、見えない。
ステージ上できらきら輝いて、すごく遠くにいる人だってわかってしまった今も、好きの気持ちは消えない。
ずっとずっと、赤染くんが好きだよ。
赤染くんからしたら、ただの脇役かもしれない。でも私の物語の主役は、私だから。伝えたいことは言うんだ。
「私は、赤染イオリくんが大好きです!」


