主人公なんかじゃない

「言葉でいくら説明しても、きっと分かってもらえないと思う。強い刺激を与えないと」

 ショック療法だよ、といって赤染くんはウィンクした。刺激が強いから、アイドルっぽいことを目の前でやるのはやめてほしいんだけどやめてほしくない。

「そ、そうだね……」

 どきどきして、じょうずに返事ができない。

「もともと眞緒ちゃんを呼ぶつもりだった日本武道館公演に、リカコちゃんも呼ぼう。メンバーにもぜんぶ話して、協力してもらおう」

 赤染くんに迷いはなかった。
 そして赤染くんの言う通り、メンバーは驚くほどスムーズに理解してくれた。

「なーんか、ヘンだと思ったもんねー」

 ハルトくんが、ようやく納得がいったようにうなずいた。

「そうなの!? オレはなんにも思わなかったけど!」

 タイガくんはひとりでびっくりしている。

「眞緒ちゃんと……リカコちゃんの……仲直り大作戦……」

 シオンくんが、腕を組んで考えている。

「えー、俺が大食いなのバレてたんだ」

 ミナトくんが、あんドーナツをもぐもぐ食べながら、ちょっと残念そうに言った。

「ごめんなさい……」

「なんで謝るの。それより、リカコちゃんって子と仲直りしないと」

 ミナトくんは、めずらしくニッと笑う。

「あ、ありがとう……!」

 カラリスが味方になってくれるなんて、心強い!
 それに……赤染くんの言った通りだったね。カラリスのメンバーは、きっとすんなり受け入れてくれるって。

「きっと、ライブを見てくれたら……細かいことはどうでもいいか、って思ってくれるかもね」

「そんな、単純な…」

「思うより、人間って単純かもよ? むずかしく考えないようにしないとね。みんなみたいに」

 赤染くんが、メンバーを見ながらふふっと笑った。メンバーは、はて、と首をかしげる。
 なにも考えずに勢いで行ってみるのも、悪くないかも?


 ということで、赤染くんの考えたショック療法は、リカコに効いてくれた。


「帰ろうか。もとの物語に戻らないと」

 私は日本武道館の席を立つ。現実の世界に戻らないとね。

「そうだね。でもさ眞緒。物語の行き来って何度でもできるの?」

「え?」

 リカコは、キラキラさせた目でステージを見つめた。

「何度でも来られるなら、またカラリスのステージ見たいな。あの紫色の子に会いたい」

 何度でも、できるのかな?
 深く考えたことがなかったけど、そもそもなぜ行き来できるのかもふくめ、なにも知らない……。

「どうだろう……二度と来られないかもしれない……」

「……そうなの?」

 いつでも会えるって思っていたけど……そうはならないのかもしれない。
 今日は、ライブが終わったらメンバーのメイワクにならないよう、帰るつもりだった。
 また後日、会いに行けばいいと思ったから。でも、わからないんだ……。
 これが、最後になるかもしれないってこと?

「眞緒」

 リカコの声に、私はハッと顔をあげる。

「ね、今から会いに行ったら? あたし、ここで待っているから」

「リカコ……」

「ここだと、あたしってモデルじゃないから気が楽なんだよねー。顔バレしなくてすむから!」

 リカコがそういったとたん、その声を聞いたカラリスのファンの人たちが、帰る足を止めて振り返った。中学生くらいの女の子ふたりだった。

「あれ、リカコちゃんじゃない?」

「ほんとだ。え、でもリカコちゃんは物語の中の人で……でも、リカコちゃんだよね?」

 リカコは、意味がわからないというようにきょとんとする。

「あ……そういえば、この世界のリカコってモデルをやりながら、あやかし退治をしている物語の主人公なんだよ……」

 これだけの人数がいたら、読者の子がいてもおかしくはない。

「あの『ひまわりダイアリー』って本では、あたしそういうことになってるの!? やめてよ!」

「やっぱりリカコちゃんだよ! リカコちゃーん!」

「マルはどこー?」

「知らないよ、なんだよマルって!」

 リカコは、女の子たちに追われて会場の外に走って行ってしまった。
 ほんとうにやっていないのかな、あやかし退治。残念だなあ。
 私は……赤染くんに会いに行こう。