主人公なんかじゃない

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 無事、赤染くんの部屋にリカコとともに到着!

「……え、どういうこと? ここはだれの部屋?」

 きょろきょろと見回すリカコ。さっきまでの私の部屋と違って、シンプルな男の子の部屋になったんだもんね。
 私はリカコに向き直り、両手を広げた。

「ここは……なんと、赤染くんの部屋です!」

 私のポーズと言葉を見聞きして、リカコはぽかんと口をあけた。

「……え、赤染くんって、眞緒が好きなあの?」

「でもって、これがリカコ」

 私は赤染くんの本棚から『ひまわりダイアリー』の本を取り、表紙を見せる。赤染くんが『本棚から取って、リカコちゃんに見せていいよ』って言ってくれたんだ。

「え、なに? あたし?」

 リカコが『ひまわりダイアリー』を手に取ろうとしたけど、私はそれをさせまいと胸に抱いた。あの日、『カラリス☆ステージ!』を奪い取った日のように。

「見せてよ!」

 またイジワルをされた、と思っているような顔。もう、そんなに怒ったような悲しいような顔を見たくない。だから、この誤解をとくんだ。今だけは嫌われてもいいから……。
 私は、あえて強い表情を作ってリカコの目をじっと見た。私は、やましいことなんかしてないもん!

「見せられない。見たら、もとの世界に戻っちゃうから」

「もとの世界……?」

「『カラリス☆ステージ!』を見せられなかったのも、同じ理由だよ。私はイジワルしたんじゃないの、リカコを悲しませたかったわけじゃないの」

 私の必死のうったえに、リカコは混乱した様子で頭をかかえる。

「ぜんぜん、わかんない! いったん整理させて。本を開くと、その物語の中に行けるってこと?」

「そうだよ」

「本を開くとその世界に行けちゃうから、読めないってこと?」

「そう」

「じゃああのとき、無理やりあたしから本を取ったのも……?」

「うん、リカコが、『カラリス☆ステージ!』の物語の中に行かないようにするため」

「そうだったん、だ……?」

 首をかたむけ、眉をひそめながら言う。いまいち納得はしていないみたいだけど、いちおうわかってくれたみたい。

「で、これから日本武道館に行きます」

「ブドーカン?」

「カラリスのライブ会場だよ! 急いで!」

「は? え? 今から?」

 私たちは、カラリスのシェアハウスから飛び出す。オートロックだから鍵はいらないよ、と言われた。さすが、アイドルのおうち!
 家の目の前にはタクシーが止まっていた。ハルトくんが事前に呼んでくれたんだ。
 子どもだけでタクシーに乗るなんて初めて!
 どきどきしながら、後部座席に乗り込む。行先もアプリで指定済みだから、スムーズに出発した。



 日本武道館の裏口に到着。
 タクシーを降りると、関係者用入り口に到着。開演には間に合った!
 リカコは、タクシーの中でずっと「どういうこと?」とつぶやきながら首をひねっていた。私の話、あんまり納得できていないみたい……。当然だよね。
 会場に入る。初めての日本武道館はすごく広くて、ちょっと怖いぐらい。アリーナ席、一階席、二階席があって、関係者用の席は一階席にあるんだって。
 私はチケットに記載されている番号の席に座った。となりにリカコも座る。

「こういうライブを見るの、はじめて……」

 興味深そうに、リカコが客席を見回している。私もどきどきを隠すように周りの人を観察する。
 開園を待つファンの人たち。みんな、グッズを手にわくわくしているみたい。すでに、色とりどりのペンライトが輝いていた。五色の光が、星みたいにまたたいている。
 いいな、グッズ……私もほしい!
 買ったら、自分の世界に持って帰れるのかな? でも、もう買いに行く時間はなさそう……。

「ほんとうに、あのカラリスのライブなの?」

 リカコの問いかけにうなずく。私も信じられないんだけどね。

「そうだよ。見てくれたら、信じられると思う」

 会場が暗くなる。客席から悲鳴にも似た歓声があがる。
 いよいよ、ライブがはじまる!