主人公なんかじゃない

   *

 土曜日の、一時。
 朝から……ううん、この計画をたててからずっと、落ち着かなくてそわそわしている。
 リカコは今日まで、私とは口をきいてくれなかった。
 だから、来てくれる気がしなくて……。

『仲直りする? 物語の中のアイドルのライブに来い? どうやって? 意味がわかんない!』

 と思われているかも。
 私だったら……そう思うよ。ふざけてる、仲直りするつもりがないんじゃないか、って……。
 けど、リカコはきっと来てくれる。そう信じて待とう。
 ライブは、十四時開演、十五時スタート。カラリスのシェアハウスから電車で三十分ほどの場所にある日本武道館が今日のステージ。
 物語で読んだカラリスの初武道館は圧巻だった。あれもまた感動で……というのは置いておいて。
 窓から道路を見て、部屋をうろうろして、また道路を見て、をくりかえした。
 時計を見ると、一時十五分。来てくれないかも……。リカコは、時間はきっちり守るほうだから。
 少しあきらめかけたそのとき、見覚えのあるシルエットが道路を歩いている姿が見えた。いつもみたいに背筋をピンと伸ばしてさっそうと歩く……というより、猫背になりながら、少しゆっくり歩いている。

「来た!」

 私はすぐに部屋を出て、リビングにいる両親に「今日はリカコの家に遊びに行ってくる」と声をかけてから玄関のドアをあけた。
 玄関前で立っていたリカコは、驚いて目を泳がせた。もしかしたら、ピンポンを押すか迷ったのかも……。

「わ、早いんだけど」

 目を見開いて私を見ている。さいきん、驚かせてばかりだな……。

「二階から見ていたから。よかった、来てくれて! さ、足を忍ばせて私の部屋へ!」

「え? 忍ばせて?」

 私はシーと人差し指を立ててから、そーっと玄関のドアをあけた。リカコを招き入れて、自分の靴を持って廊下へ。リカコにも同じことをするよう手で伝える。わけがわからないという顔のまま、リカコも靴を手に廊下へ。
 リビングとつながるドアは閉めてある。親がドアを開けてしまわぬよう、そろりと歩きつつもいそいで階段へ。

 そのとき、階段から「ミシィ!!」という音が。私の体重で床がミシミシしちゃった!

 ちょっとー! しずかに!

 意味ないけど、床に向かって人差し指を立ててから、再び階段をのぼる。
 振り返ってリカコを見ると、吹き出しそうな顔で、ほっぺをふくらまして私を見上げていた。
 ウケた?
 こんな危機的状況なのにリカコが笑ってくれたことがうれしくて、気がゆるみそうになる。でも、ここからが本番だからね!
 キンチョーで、手汗がすごいことになっている。
 あと五段、四段、三段、二段……最後の段をのぼりきり、すばやく自分の部屋へ。
 リカコも続く。
 ドアをそっと閉めて、ようやくひとここちついた。

「ちょっと、なにこれ。説明してよ」

 はーはー言いながら、小声でリカコが抗議する。
 今日の計画を言ってあげたいけど、言ったらつまんないもんね。仲直りするにはインパクトが大事だし、まず見てもらうことが大切……って思うんだよね。じゃないと……このおかしな状況は信じられないと思うし、「ヘンなこと言ってる!」って怒られたくないから。

「説明は、物語の中でするから」

 私は『カラリス☆ステージ!』を手に取る。

「また、それ?」

 リカコの呆れたような言い方に、心が折れそうになる。だめ、ぜったい仲直りするんだ!

「私を信じて。靴を持ったまま、本を見て」

 不服そうな顔をしていたけれど、リカコはそれ以上、反対意見は言わなかった。
 私が、片手で『カラリス☆ステージ!』を広げてリカコに見せる。しぶしぶといった様子で、私といっしょにのぞきこむ。