「そろそろ戻らないとね」
赤染くんが、防音室の机に置いておいた『ひまわりダイアリー』を手にとる。
「ライブ、本当に見に来てね。物語の中のではわからない音を楽しんでほしいんだ」
「うん、ぜひ!」
カラリスのライブ、ぜったい見たい!
もっと、赤染くんと話したい。メンバーのみんなと話すのも楽しいけど、やっぱり赤染くんともっと仲良くなりたい。
でも、時間は勝手に過ぎていく……。
「それじゃあ、本を開いて」
「うん……」
赤染くんが本を手渡して、そっと離れる。いっしょにのぞきこんだら、赤染くんが私の部屋に来てしまうからね。私ひとりで見ないと。
こんな時間に家にいないことがバレたら、きっとすごく怒られる。それは避けたいから、早く戻らないと。
「また、ぜったい会おうね。会いに行くから」
「うん!」
そっけないときもあるけど、やっぱり赤染くんはやさしいし、私によくしてくれる。うれしいな。
私は『ひまわりダイアリー』を開く。文字が目に入ると同時に意識が薄れ……るかと思ったけど、なにも変わらない。
「あれ?」
「え」
私と赤染くんは、思わず顔を見合わせる。
「もとの世界に、戻れない?」
私は、自分の血の気がひいたとわかった。
ずっと『カラリス☆ステージ!』の世界にいたいとは思ったけど、実際そうなると……恐怖でしかない。
ここで暮らしたい気持ちは本当。でも、家族やリカコともう会えないのは嫌だ――!
赤染くんも本をのぞきこむけれど、状況は変わらない。
「……もしかして、俺の部屋じゃないとダメ?」
赤染くんがあごに手をあてながら、ひとつの説を口にする。
「たしかに。いつも、私と赤染くんの部屋しか行き来してないもんね」
「てことは……一度リビングを通って、俺の部屋にいかないといけないってことか」
「四人がいるのに……」
防音室にかけられた時計を見ると八時五十分。親が帰ってくるまであと十分しかない。悩んでいる時間がないよ。
「俺がみんなの気を引くから、そのすきに眞緒ちゃんは二階に上がってもらう……っていうのはどうだろう。ゲームに夢中になっているうしろを通り過ぎれば見られないよ」
うん、と赤染くんはひとりうなずく。
だいじょうぶかな……。
しかし、赤染くんはいや、とまた考えはじめた。
「どうしたの?」
「……ほんとうのことをみんなに言うチャンスかも」
「えっ、みんなに言うの?」
物語を行き来しているって?
そんな話、信じてもらえるかな?
私と赤染くんは、それぞれの物語を読み込んでいたから、納得できたわけで……そうでもない人に話したところで「何を言っているの?」ってヘんな目で見られるだけなんじゃないかな。
赤染くんは、私がノリ気でない様子を見て、小さく首を振った。
「だって、悪いことをしているわけでもないし、みんなのことを傷つけるわけでもないんだよ。正直に話せばきっとみんなわかってくれる」
「信じてくれるかな……」
「きっとだいじょうぶ!」
赤染くんが自信を持って言う。
たしかに、みんないい人だもん。すぐに理解はしてくれなくても、きっとわかろうと努力してくれる気がしてくる。
「そっか……それもいいかもね」
話してすっきりしたい気持ちもあるけれど、どこかにさみしさはあった。
物語の中を行き来できるのは、私と赤染くんだけの秘密なのに、って……。
けど、コソコソしているのも疲れるし、言うチャンスではあるのかも。
それにしても赤染くんは、みんなを信用しているんだね。すごいよ。グループの絆を見せつけられた気分。
「でも私、親には知られたくない。きっと理解されないと思うし」
物語の中を行き来できるなんて知ったら笑われるか、心配して本を取り上げられるかのどちらかだと思う。どういうリアクションをするか想像ができないけど、「そうなんだ、楽しんでね」とはならないと思う。
「そうだよね。じゃあ九時までには帰らないと。ちょっとリビングの様子見てくる」
赤染くんが防音室からリビングに戻る。私も、防音室のドアからそっと様子をうかがう。
すると、リビングから赤染くんが手招きしている姿が見える。私は足音を忍ばせてリビングへ。
カラリスのメンバーのうち、タイガくんハルトくんとミナトくんがゲームのリモコンを手にしたまま、すやすやと寝ていた。
え、もう全員寝たの? 早くない?
「たぶん、シオンが風呂に行った。それでゲームをやめたら、眠くなっちゃったんだろうね」
遠くで、シャワーの音が聞こえる。
ホッとした思いと、カラリスのメンバーのかわいい寝顔を見てしまったうれしさで複雑な気持ちになる。
「……行こうか」
「うん」
みんなに理解してもらおうと決めたから、ほんとうのことを話せないのはちょっと残念な気持ちではあった。でも、しばらくは赤染くんとふたりだけのひみつになりそうで、うれしかった。
赤染くんの部屋に戻る。
時刻は九時一分前。
「今日はありがとう赤染くん。あっという間だった!」
「ほんとに。また、遊びに来てよ。メンバーもよろこぶから」
「みんな、よろこんでくれてる?」
「もちろん!」
疑いようのない赤染くんの笑顔にほっとする。
避けられてるとか嫌われてるとか、いろいろネガティブに考えちゃうけど……でも、赤染くんの笑顔を信じよう。
「じゃあ時間だから、帰るね」
「うん。一週間くらいしたら、また会おうね」
「それまで、元気でね!」
私は時間に急かされるように、『カラリス☆ステージ!』を開いた。
……
…………
………………
気が付いたら自分の部屋にいた。よかった、戻れた!
と同時に、一階から「ただいまー!」とお母さんの声が聞こえた。
階段を下りて出迎える。
「おかえりー!」
「ごはん食べてないじゃない! 待ってたの? しかも制服のままで?」
冷蔵庫を見ながら、お母さんが文句を言う。
あ、しまった。カラリスのシェアハウスにいってみんなとごはんを食べただけで、家のごはんは食べてなかった!
「着がえる前に昼寝しちゃって……」
「じゃあいっしょに食べよう!」
ええー、お腹いっぱいなんだけど……でも、せっかく用意してくれてたんだもんね。ここで適当に「お腹空いてない」って言えない私の生真面目さ……。
「うん、食べよう」
あわてて部屋に戻り、制服を脱いで部屋着に着替える。
ムダだとは思いつつ、がんばって体をうごかす。ひみつのある生活って、大変だ。
どうにか、お腹すいてー!
赤染くんが、防音室の机に置いておいた『ひまわりダイアリー』を手にとる。
「ライブ、本当に見に来てね。物語の中のではわからない音を楽しんでほしいんだ」
「うん、ぜひ!」
カラリスのライブ、ぜったい見たい!
もっと、赤染くんと話したい。メンバーのみんなと話すのも楽しいけど、やっぱり赤染くんともっと仲良くなりたい。
でも、時間は勝手に過ぎていく……。
「それじゃあ、本を開いて」
「うん……」
赤染くんが本を手渡して、そっと離れる。いっしょにのぞきこんだら、赤染くんが私の部屋に来てしまうからね。私ひとりで見ないと。
こんな時間に家にいないことがバレたら、きっとすごく怒られる。それは避けたいから、早く戻らないと。
「また、ぜったい会おうね。会いに行くから」
「うん!」
そっけないときもあるけど、やっぱり赤染くんはやさしいし、私によくしてくれる。うれしいな。
私は『ひまわりダイアリー』を開く。文字が目に入ると同時に意識が薄れ……るかと思ったけど、なにも変わらない。
「あれ?」
「え」
私と赤染くんは、思わず顔を見合わせる。
「もとの世界に、戻れない?」
私は、自分の血の気がひいたとわかった。
ずっと『カラリス☆ステージ!』の世界にいたいとは思ったけど、実際そうなると……恐怖でしかない。
ここで暮らしたい気持ちは本当。でも、家族やリカコともう会えないのは嫌だ――!
赤染くんも本をのぞきこむけれど、状況は変わらない。
「……もしかして、俺の部屋じゃないとダメ?」
赤染くんがあごに手をあてながら、ひとつの説を口にする。
「たしかに。いつも、私と赤染くんの部屋しか行き来してないもんね」
「てことは……一度リビングを通って、俺の部屋にいかないといけないってことか」
「四人がいるのに……」
防音室にかけられた時計を見ると八時五十分。親が帰ってくるまであと十分しかない。悩んでいる時間がないよ。
「俺がみんなの気を引くから、そのすきに眞緒ちゃんは二階に上がってもらう……っていうのはどうだろう。ゲームに夢中になっているうしろを通り過ぎれば見られないよ」
うん、と赤染くんはひとりうなずく。
だいじょうぶかな……。
しかし、赤染くんはいや、とまた考えはじめた。
「どうしたの?」
「……ほんとうのことをみんなに言うチャンスかも」
「えっ、みんなに言うの?」
物語を行き来しているって?
そんな話、信じてもらえるかな?
私と赤染くんは、それぞれの物語を読み込んでいたから、納得できたわけで……そうでもない人に話したところで「何を言っているの?」ってヘんな目で見られるだけなんじゃないかな。
赤染くんは、私がノリ気でない様子を見て、小さく首を振った。
「だって、悪いことをしているわけでもないし、みんなのことを傷つけるわけでもないんだよ。正直に話せばきっとみんなわかってくれる」
「信じてくれるかな……」
「きっとだいじょうぶ!」
赤染くんが自信を持って言う。
たしかに、みんないい人だもん。すぐに理解はしてくれなくても、きっとわかろうと努力してくれる気がしてくる。
「そっか……それもいいかもね」
話してすっきりしたい気持ちもあるけれど、どこかにさみしさはあった。
物語の中を行き来できるのは、私と赤染くんだけの秘密なのに、って……。
けど、コソコソしているのも疲れるし、言うチャンスではあるのかも。
それにしても赤染くんは、みんなを信用しているんだね。すごいよ。グループの絆を見せつけられた気分。
「でも私、親には知られたくない。きっと理解されないと思うし」
物語の中を行き来できるなんて知ったら笑われるか、心配して本を取り上げられるかのどちらかだと思う。どういうリアクションをするか想像ができないけど、「そうなんだ、楽しんでね」とはならないと思う。
「そうだよね。じゃあ九時までには帰らないと。ちょっとリビングの様子見てくる」
赤染くんが防音室からリビングに戻る。私も、防音室のドアからそっと様子をうかがう。
すると、リビングから赤染くんが手招きしている姿が見える。私は足音を忍ばせてリビングへ。
カラリスのメンバーのうち、タイガくんハルトくんとミナトくんがゲームのリモコンを手にしたまま、すやすやと寝ていた。
え、もう全員寝たの? 早くない?
「たぶん、シオンが風呂に行った。それでゲームをやめたら、眠くなっちゃったんだろうね」
遠くで、シャワーの音が聞こえる。
ホッとした思いと、カラリスのメンバーのかわいい寝顔を見てしまったうれしさで複雑な気持ちになる。
「……行こうか」
「うん」
みんなに理解してもらおうと決めたから、ほんとうのことを話せないのはちょっと残念な気持ちではあった。でも、しばらくは赤染くんとふたりだけのひみつになりそうで、うれしかった。
赤染くんの部屋に戻る。
時刻は九時一分前。
「今日はありがとう赤染くん。あっという間だった!」
「ほんとに。また、遊びに来てよ。メンバーもよろこぶから」
「みんな、よろこんでくれてる?」
「もちろん!」
疑いようのない赤染くんの笑顔にほっとする。
避けられてるとか嫌われてるとか、いろいろネガティブに考えちゃうけど……でも、赤染くんの笑顔を信じよう。
「じゃあ時間だから、帰るね」
「うん。一週間くらいしたら、また会おうね」
「それまで、元気でね!」
私は時間に急かされるように、『カラリス☆ステージ!』を開いた。
……
…………
………………
気が付いたら自分の部屋にいた。よかった、戻れた!
と同時に、一階から「ただいまー!」とお母さんの声が聞こえた。
階段を下りて出迎える。
「おかえりー!」
「ごはん食べてないじゃない! 待ってたの? しかも制服のままで?」
冷蔵庫を見ながら、お母さんが文句を言う。
あ、しまった。カラリスのシェアハウスにいってみんなとごはんを食べただけで、家のごはんは食べてなかった!
「着がえる前に昼寝しちゃって……」
「じゃあいっしょに食べよう!」
ええー、お腹いっぱいなんだけど……でも、せっかく用意してくれてたんだもんね。ここで適当に「お腹空いてない」って言えない私の生真面目さ……。
「うん、食べよう」
あわてて部屋に戻り、制服を脱いで部屋着に着替える。
ムダだとは思いつつ、がんばって体をうごかす。ひみつのある生活って、大変だ。
どうにか、お腹すいてー!


