『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 案内された地下駐車場の一角には、一台のセダンが停まっていた。全体的に丸みを帯びた車体の表面は滑らかで継ぎ目が少なく、濃色のボディは照明を受けて反射している。見たことの無い車種だが、超高級車であるのは確かだろう。

 緊張しながら助手席に腰を下ろすと、航生が外からドアを閉めた。その音は驚くほど静かで柔らかかった。

(これから、なにを聞かされるんだろう……十年前、私がつき纏ったのが迷惑だったって詰められるの? でも今さら過ぎない?)

 勝手に想像して勝手に心を痛めていると、運転席に座った航生が同じくドアを閉める。車内に気まずいほどの静寂が下りた。

「永井」

 航生はこちらに体を向けて、軽く身を乗り出してきた。曇りなき眼は駐車場の明かりを映して煌めいている。

「俺と、結婚してくれないか」

 その瞳に見つめられながら耳に入ってきたのは信じられない言葉だった。

「……ん?」

 キョトンとする紗月から航生は視線を外さない。

(今、島くん結婚って言った?)

 すぐ近くにある整った顔を見つめる。言葉の意味を脳が正しく理解するまで数秒かかった。

「け、結婚⁉」