『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

「い、いや、そういう、わけでは……」

 立派な体格に、身に着けたスーツも明らかに格が違う。そのうえ、知性を感じさせる冷静な眼差しで静かな圧をかけられ、坂本は萎縮する。自分より格上とみなした相手には、強気に出れないようだ。

「紗月、行こうか」

 黙ってしまった坂本を一瞥し、航生は歩き出す。紗月は肩を抱かれたまま付いていくしかなかった。

「……ありがとう。恋人のふりして助けてくれたんだよね」

 坂本の姿が見えなくなったのを確認して紗月は立ち止まり、小声でお礼を言う。先週に引き続き彼にピンチを救われてしまった。

 なぜ、彼が紗月の会社の前に現れたのかはわからないし、出来れば顔も合わせたくもなかったけれど、助かったのは確かだ。

「あいつが、セクハラ上司だな」

 航生は紗月の肩から手を離して低く呟いた。その表情は驚くほど硬い。

「近くに車が停めてある。あの男が追ってきたら大変だ。家まで送っていく」

「え、いいよ。大丈夫だから」

 慌てて固辞する紗月の手を取ると、航生は紗月を引っ張るように歩き出した。

「ちょっと、待って……もう、島君!」