『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 自分も迂闊だったとしか言いようがない。あのときは酔っていたし、感情的になっていて、『君を困らせている全てから助けられる』という言葉の心地よさについ流されて体を許してしまった。

 でも、あのときはそれでいいと思えた。紗月は確かに彼を求めていた。〝大須賀さん〟に優しく抱かれたあの時間だけは、身も心も縛りから解かれたのは確かだ。

(もう、考えるのはやめよう。私はたまたま会った素敵な男性と一夜を楽しんだだけって思えばいい)

 この先〝大須賀さん〟にも〝島君〟にも会うことはない。すべて忘れよう。

 自分に言い聞かせた紗月はエレベータを降り、エントランスを出る。

 駅へと向かって少し歩き出した紗月は、坂本が向かいからこちらに向かってやってくるのを見て、思わず足を止めた。

「おい、永井!」

 紗月の前に立った坂本はこちらを睨みつけた。

「課長、お酒飲んでるんですか」

 紗月は思わず顔を顰める。坂本の顔は明らかに赤くなっていて、酒臭い。

(会社帰りにお酒を飲んで戻ってきたのかな)

 拒否感に思わず後ずさると、坂本は距離を詰めるようにこちらに近づいてきた。