『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

『でも、嫌なものは嫌なんです。それに、他のメンバーに同じようなことをしたら困ります』

『悪いけど今回は水に流してくれ。また問題起こすとさすがにあいつもまずいんだよ。僕は彼の同期だからよく知ってるんだけど、本当はいいヤツなんだ』

 どうやら人事部長は坂本と仲がいいらしい。口ぶりからすると、坂本は前の職場でもなんらかの問題を起こしたが、人事部長がもみ消したようだ。

(これじゃあ、相談窓口なんてあって無いようなものじゃない……)

 ペラペラとしゃべり続ける人事部長を前に紗月は絶望した。

 資料を共有し終わった紗月は、虚しい息を吐き出しながらパソコンを閉じ帰り支度を整えた。

(忙くても、いいことがひとつだけあった。仕事してるときは余計なことを考えなく済むから)

 逆に、仕事をしていないときはつい思い出してしまう。先週末の航生と衝撃の再会を。

 あれから5日ほど経っていたが、紗月はあの出来事をまだ整理できずにいた。

(あんなの気づけるわけない。島君、変わりすぎだよ。私、揶揄われてたのかな。でも、黙ったままホテルに誘うなんて、普通に考えてやっぱりひどいよね)