『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 返ってきたのは、驚くほど静かな声だった。自嘲も開き直りもなく、ただ淡々と事実を口にしているように聞こえる。

 その無感情な態度が、紗月の怒りに火を点けた。

「最初から、私を騙して楽しんでたのね」

(私の知っている島君は、こんな人じゃなかった)

 人にも物事にも一定の距離を取ろうとするところはあったが、決して冷たい人ではなかった。不器用ながらも、そっと寄り添う優しさを持っていた。少なくとも、旧友に嘘をついたまま、体を重ねるなんて卑怯な行為はしない。

(そんなに、私が嫌いなんだ。そこまでして、傷つけたいんだ)

 それなら、彼は大成功している。今、紗月の心はショックでズタズタに切り裂かれているのだから。

 初恋の呪縛から解き放たれると思って初めてを捧げたのに、その相手が初恋の人だったなんて。

「騙していたのは、認める。でも――」

「私、帰る」

 さらに続けようとする航生を遮り、ソファーの上のバッグを手に取る。

(泣き顔なんて、見せたくない)

 もう涙が流れる寸前だ。一刻も早くここから立ち去りたい。バックの中から財布を取り出し、ありったけの一万円札テーブルの上に置く。