『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 正直なにもなかったことにして、この部屋を出ていきたかったが、宿泊代金を支払わずに逃げるわけにはいかない。

(……ていうか、改めてすごい部屋だよね)

 昨日は余裕が無くて、ろくに確認できなかったが客室はとても広い。柔らかな色合いのクッションが並ぶソファー、磨き上げられたガラステーブルや小さなデスクなどはどれも洗練された和モダンのデザインで、動線を邪魔しない場所に配置されている。

 こんなすごいホテルを当たり前のように押さえ、まったく気後れしている様子の無かった大須賀は何者なのだろう。

(まぁ、お互い詮索しないでサヨナラするのがワンナイトの礼儀なんだろうな)

 少しだけ寂しさを覚えるのは、昨日の彼が優しすぎたせいだろう。

 小さく息をついた紗月は大須賀を起こさないように慎重にベッドから抜け出す。おぼつかない足腰が昨夜の行為を思い出させてまた頬が熱くなる。

 はだけたバスローブ姿のままでいるのが落ち着かない。着替えようと思った紗月はソファーの上に昨日脱いだ服が軽くたたんであるのを見つけた。

(これも、大須賀さんが……だめだ、もう、深く考えるのはやめよう)