『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

『OGセラミックって会社知ってる?』

 航生はほとんど葉の残っていない木の枝を見上げて、唐突に話し出した。

『うん。よくCMとかで見かける大きな会社だよね』

 超有名企業の名前を問われて、紗月は素直に答える。

『俺の父親は、あそこの経営者だ。母は父の愛人で、俺はその間に生まれた』

 言葉を失った紗月を尻目に、航生はさらに話し続けた。

 化学メーカーOGセラミック株式会社は日本を代表する素材メーカーのひとつだ。

 創業一族の三代目である航生の父は、大手化学メーカー社長のひとり娘を妻に迎え、跡取りとなる長男をもうけていた。しかし、屋敷に住み込みで働いていた若い家政婦を身ごもらせる。それが、航生の母だ。

『しばらく俺は屋敷の離れで暮らしてたんだけど、いろいろあって母さんと家を出たんだ』

『そう、なんだ……』

 彼の言った〝いろいろ〟にどれだけ辛い経験があったのだろう。そう思うと胸が詰まった。

『周りからの風当たりは強かった。でも、兄さんだけは俺たちを無下にしなかった』

『お兄さんって、さっき会った人だよね』