『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 そんな航生を見て複雑な気持ちになったのは紗月だ。

 隣の席の女子に質問され、共に参考書を覗きこんでいる航生を見てやけに落ち着かなくなった。

(島君が他の子に気軽に話しかけられるようになってよかったはずなのに、なんでこんなに嫌な気持ちになるの)

 自分の感情に戸惑いながらも、紗月は変わらぬ態度で航生に接し続けた。

 そんな日々が二か月ほど続き、航生に誘われ学校帰りに彼の母を見舞いに行ったのは11月下旬だった。

 航生に続いて病室に入った紗月は、夏休みが終わる前に会ったときと比べて明らかに痩せている彼の母を見て衝撃を受けた。

『母さん、今日は永井を連れてきたよ』

『まあ、来てくれたの』

 航生が声を掛けると、ベッドで横たわっていた彼女はゆっくりこちらを向いた。しかしその声は弱く、顔は青白い。

『こんにちは、お久しぶりです!』

 紗月はあえて明るい声を出しながらベッドに近づく。息子に介助されながら、航生の母は上半身を起こした。

『元気そうでよかったわ。受験勉強で忙しいのにごめんなさいね』

『いえいえ、勉強は島君が教えてくれるのですっごく助かってるんです』