『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

『素直にお父さんを応援してあげられない自分も嫌だってグズグズ考えちゃって……めんどくさいよね』

 友達にも話してこなかった家族の話だが、不思議と航生には抵抗なく打ち明けられた。ずっと抱えていたモヤモヤしていたものを誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

『そうか』

 軽いノリで話したつもりなのだが、航生の声は少し沈んでいた。引かれてしまったのだろうか。

『愚痴を聞いてくれてありがとう。今までの勉強の分も含めて、こんどなにかお礼させて!』

 無性にいたたまれなくなった紗月が明るくごまかそうとすると、航生の顔がこちらを向いた。

『……すごいよ』

『えっ?』

『家族のためにがんばれる永井は、すごいと思う』

『島君……』

『でも、がんばりすぎるなよ、永井っていつも一生懸命だからちょっと心配になる』

 隠れているはずの目もとから優しげな視線を感じた気がして、紗月の心臓はふいに跳ねた。

 これまで家族に感謝されることがあっても、他人にこうしてストレートに褒められたり、気遣われた経験はなかった。お世辞を言うタイプではない航生の言葉は胸の奥に届き、柔らかい場所を淡く色づけた。