『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 小声で問われて、紗月は目を丸くした。どうやら、空元気なのを見破られたらしい。

(島君って、周りに興味なさそうなのにちゃんと見てるんだな)

『……お恥ずかしい話なんだけどね。前にうちが三姉妹でお金に余裕がないって言ってたと思うんだけど』

 紗月は肩を竦めて話し出した。

 昨日夕食の席で、父が明るく切り出してきたのは転職話だった。元々営業職だった父は、会社を変えて同じような仕事をすることにしたらしい。

『最初は今より給料は下がるけど、すぐに戻るよ』と楽観的な父に対して、母も姉も妹も『お父さんさんなら大丈夫』、『いいじゃん』と肯定的だった。しかし、紗月だけは『その会社、安定してるの? すぐって、どれくらい?』と詰め寄ってしまった。

『そしたらみんなに、〝紗月は心配性すぎる〟って言われてね……私、昔から永井家の異端児なんだ』 

 紗月は自分以外の家族が楽観的なお人好しが揃っていて、必然的に自分が堅実的にならざるをえなかったと説明する。

 紗月だって父がやりたい仕事をするのが一番だと思う。でも娘たちの受験が重なるこの時期にわざわざ転職しなくてもと、否定的な気持ちが先立ってしまったのだ。