『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 最初は数列だけの約束だったのに、いつの間にか勉強の範囲は数学の他の単元、さらには化学や英語、現代文にまで及んでいた。

 なぜなら、航生はすべての教科において完璧に内容を理解していたのだ。こんなに頭いいのに彼の学年テストの成績がごく普通なのが不思議でならなかった。

『いい。俺も教えるが復習になってるから』

 この夏休み、共に時間を過ごすうちにふたりはだいぶ打ち解けていた。

 自分からお願いしたとはいえ、これまでほとんど関わってこなかった航生のキャラクターを計りかねていたから、間が持つか多少の不安があった。しかし口数は少ないものの、彼は紗月の勉強に根気強く付き合ってくれた。

 物静かな航生のそばにいると集中力が増したし、ひとりで勉強している不安も和らいで紗月の受験勉強はだいぶ捗っていた。

『この分なら、今度の模試はいい結果が出そうな気がする。島君、本当にありがとうね!』

 笑顔を向けると少し躊躇してから航生が口を開く。

『永井、なにかあった?』

『えっ』

『今日、なんとなく、いつもと様子が違うように見えたから』