『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 思い詰めたような声に遮られ、紗月は目を瞬かせる。これを伝えたくてわざわざ教室まで来たのかもしれない。彼の口元は思い詰めたようにギュッと結ばれていた。

 航生は、安易な同情を向けられたり、噂されるのが嫌なのだろう。

『わかった。約束する。島君、私と病院で会って気まずそうだったから、元々そんなつもりもなかったけどね』

『そうか……ありがとう』

 航生は少しホッとしたように小声でお礼を言った。

(あ、口元が緩んだ。島君って口角の上にちいさいホクロがあるんだな)

 こうやって彼の顔をしっかり見るのは初めてだ。とはいえ、目元は隠れてよく見えないが。

『……永井は勉強してたのか』

 要件が済んだからすぐ立ち去ると思ったのに、航生は机の上に乗った紗月のノートに視線を落としている。

『うん、この数列がどうしても理解できなくて。途中までは合ってると思うんだけど、この先どう解いていいかわからなくて』

 頬杖を突きながらノートを眺めていると、航生は人差し指で一か所を指し示した。

『ここで悩んだだろ』

『え、島君わかるの?』

 航生は紗月の隣の席に座り、ノートを取り出しなにやらサラサラと書き始めた。