『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 誰もいない教室で参考書を開きながら紗月は大きく伸びをした。数学は苦手ではないが、数列の単元は難しくずっと伸び悩んでいた。数学の教師に何度か聞きに行っているが、その場はわかったつもりになってもパターンがいろいろあるからうまく解けない。

(やっぱり、夏期講習を受けた方がよかったのかな……)

 紗月の通っているのは進学校だ。仲のいい麻由はもちろん、大多数の生徒がレベルの高い大学への進学を目指し、予備校の夏期講習に参加していた。しかし、その費用はどこも驚くほど高く、家計に負担をかけたくない紗月は自力で勉強に励んでいた。

 自分がこうやって躓いている内に、周りの人たちはしっかり学力を上げていると思うとどうしても不安が募る。

 焦る気持ちを落ち着かせるようにため息をついたとき。教室の入り口に航生が立った。

『あ、島君。自習に来たの?』

 紗月の問いかけには答えず、航生は教室に誰もいないのを確認しこちらにまっすぐやってきて、無言で立った。

『島君、お母さんすごく綺麗なんだね。びっくりし――』

『母の話は、誰にもしないでほしい』