その程度の溺愛で溺愛を名乗るのはおこがましいですわ

「ああ僕は君を愛している」


 みんなの前で私に宣言するのは婚約者である侯爵家の跡継ぎ、アーノルド様ですわ。


 みんなは私のことを幸せ者だと言う。


 ……確かに客観的にはそう思われも仕方ない。



 でもね……私は不満しか無いのであった……




 今日も友人の令嬢達とお茶会……



「サリーはアーノルド様に愛されていて羨ましいですわ」



「私の婚約者なんて、愛してるのあの字も言ったことが無いのよ……」



 友人2人に今日も色々言われてますが、私は別にアーノルド様が欲しいのならどうぞって言いたい気持ちをぶっちゃけ我慢している。


 もちろん家の都合とか色々いくらでもあるから、そんなことを言うほど馬鹿では無いですけどね。




「サリーはでもいつも惚気ないよね……」



「……まぁ惚気られてもむムカつくから~?それはそれで構わないけどねー(笑)」



 ……むしろ私としては文句の1つでも言いたいくらいなのだが、贅沢過ぎると言われることが分かり切っているから黙っているだけなのだ……




 さて今日もウンザリしかしないアーノルド様とのお茶会……



 アーノルド様はよく分からない花束を持って「ああ、今日も美しいサリーに相応しい花を用意してきたよ、僕の愛を受け取って欲しい」



 などと言っている、別に私は花が好きなんて一度も言ったことが無いのに……


 別に嫌いでは無いですけど、花束ではなく、私は地面に咲く自然の花のほうが美しいと思うのにね。


 それを言ったことがあるが、奴の耳には入っていないのか、口先ではなるほどと言いながら行動が改まることは無い。



「……アーノルド様、毎回花を用意するのは負担では無いですか?私はそのようなことを求めていないのですが……」



 と謙虚な振りをして今回も一応言っておく……



「はっはっは、僕はサリーに相応しい花を選ぶ時が楽しみだから気にしなくていいのだ!それよりも僕はサリーが嬉しい顔をしてくれることを望むよ!ほら笑顔になって……」



 ……はぁ勝手に花束をよこしておいて、笑顔になれと来たもんだ。



 このクソだるさ、誰かに言っても中々伝わらないでしょうね。



 ……しかし私は愛想笑いなんてあまりしないタイプの女だ。


 そりゃ殺されるくらいなら誤魔化し笑いをしますけど、愛想笑いは本当にしない女だ。


 それで可愛くないとか言われたことはいくらでもあるが、知った事では無い。



 ……これでも誤魔化し笑いならうまいほうですよ?


 私にとって笑顔とは、相手を喜ばせるものではなく、敵対を避けるための手なのだから……!



「ああ、今日もサリーは嬉しさのあまり、黙ってしまったんだね、僕の愛が重くて申し訳ないが、僕の溢れる愛を受け取って欲しい!」



 ……この人頭がおかしいのだろうか?



 相手が明らかにウンザリしていることを察知する能力がマジで無い。



 なのに本人は凄く愛している気分になっているのである……




 花束に罪は無いから毎回受け取ってしまうのが悪いのだろうか?



 しかし私は花束を投げつけるような残酷なことをしたくない。


 アーノルド様はどうでもいいのだが、花にたいして心が痛むから……



「それにしても今日も友人達にからかわれてしまったよ……僕がサリーを溺愛しすぎだと……まぁその通りなんだけどな!」





 ……私はこの男が思っているのとは裏腹に自分が溺愛されていると一切思っていない。



 何故ならこの男は自分がしたいことをしているだけだから。


 溺愛というのなら、私の言いなりになるくらいでしかるべきでしょう?



 もちろん私は相手の方に自分の言いなりになれみたいな奴隷を求めたりはしていない。



 でも溺愛とまで大袈裟なことを言うのならば、そうしろ、溺愛は甘く無いんだ!



 私はそう言いたい。



 だから、友人の婚約者達が無骨で愛してるなんて言わない男達のほうが、私からしたら誠実に見えるのだ。



 だって……できもしない約束をしていないのだから……



 多分私はこうやって怒りが溜まっていたのだろう、今日は流すことができなかった……



「アーノルド様は私を溺愛しているとお考えなので?」



 ……いつもは言わない強烈な嫌味である、しかしこれで察するような男ならば、苦労など無い、当然……




「もちろんその通り!サリーを溺愛していなかったらどうして将来有望な侯爵家の跡取りである僕が、たかが子爵令嬢の小娘と婚約するだろうか、これが証明では無いか!」



 ……本当に失礼な奴である、もちろんアーノルド様と私とでは身分差があるのは承知だ、故に両親はとても素晴らしい条件だともろ手を挙げて賛成した。


 侯爵家では私ごときがいいのか?と懸念したが、侯爵様と奥様は本当にいい方で、



「アーノルドが選んだのだから構わない、よろしく頼むよ」


 なんて笑顔で仰ってくれる方だ。




 ……ということでよほどの落ち度が無い限り、この男から離れることはできないのだ……



 で……こういうの客観的にはまぁ間違っていないのだが、この男のこういう節々に上手く人には説明できないが、不愉快さを常に感じるのである……



 ようは私が子爵家の小娘なんて百も承知で婚約を申し込んでおきながら、恩着せがましい今みたいな物言いをする、



 こういうのって、私から相手に思うのであれば成立しても、相手から言っていいことでないのでは?そう思う私は厚かましいのだろうか?



「では……何でそんなたかが子爵家の小娘を、アーノルド様ともあろう方が溺愛なさるので?」




 ……やはり私は恨みが溜まっているのだろう、今までなら言わないレベルのことを踏み込んでいる自分に気づいた……




「……どうしたんだサリー、僕は君を愛している、もう溺愛と言っていいレベルだ、どうして今日はそんないい方をするんだい?」




 ……うわ……なんだろう生理的にドン引きするようなこの言い方、なんだろう、私の体が無理!って言ってる!



 ……今私は誓った、誰がどうしたとかではない、この男と結婚しては駄目だ!




 ということでウルトラCを使うことにした。




「私はアーノルド様と結婚するくらいならば、すべてを捨てて修道院に引退しようと今思いました!」



 ……周りに迷惑をかけることは百も承知で、私の絶対の覚悟を示すことにした。



 この男と結婚したら、修道院に行くよりも絶対に不幸になると今確信したからだ!




「あっはっは、サリーは冗談が上手くなったようだね、そんなことできるわけがない」



 はい、今の一言でこの男は私を人形か何かだとしか思ってないことを確信した、舐めるなボケ!



「分かりました、今すぐに準備して向かうことにします!」


 お前と関わるくらいならば喜んで修道院に行くわボケが!



 私が明らかに興奮しているが、このボケは……




「サリー僕の愛が重すぎて逃げたくなったのかい?すまなかった!だが僕の愛は重いんだよ!」



「そういうことじゃない!てめーの愛なんてスカスカなんだ!それを重いとかほざく破綻が論外なんだ!」



 ……今自然に出た言葉、私がきっとずっとずっと思ってたことに違いない。


 こいつはどういう理屈はか知らないが、自分が愛だと思うことを言えば、相手も愛だと思ってくれるとはき違えているスカスカ野郎だ!


 そうじゃないだろ愛ってやつは。


 自分が不都合でもできることが多分愛ってやつだろ?



 私もそんなことはできないと言えば、まぁそうだなって思うけど、代わりにできもしないことを言ったりしない。


 友人の婚約者の男達は口下手かもしれないが、そこが誠実だったのでは?って私は思うのである!



「僕の愛を疑うと言うのか!お前のような女とは思わなかった!」



 はい本性を現しましたね……


 所詮その程度の浅い男だったのよ……




 こうして婚約破棄が決まった。


 アーノルド様が私が悪いから婚約破棄をしろと、侯爵様達に迫ったから、決まったらしい。


 しかしだ、侯爵様と奥様に呼ばれ3人で話した時に、



「ワシらは分かっておる、きっとアーノルドが良くないのだろう、出来た娘さんだったから、アーノルドももマシになるかと思ったら、そうはいかなかったようだ、巻き込んで済まなかった、この件でサリーさんの落ち度にする気は無いから安心して欲しい……」


 ああ、どうしてこの両親からあんなクソが生まれたのか、私は分からないと思ったのであった……



 私は侯爵様と奥様に渾身の感謝のカーテシーを決めて、アーノルド様みたいな化け物から解放されて良かったと思うのであった……