便鬼~BenKi~

 おしりが便器(べんき)のすわるところにすっぽりはまって、ぬけなくなった。

 その日、六時間目(じかんめ)の授業中(じゅぎょうちゅう)、急におなかが痛(いた)くなった。どうにかチャイムが鳴(な)り、あとは帰るだけ。でも、家までガマンできない。
 学校のトイレで大きいのをするのは、だれかに見つかる可能性(かのうせい)がある。そこでボクは、おんがく室やずこう室のあるとくべつ教室の校舎(こうしゃ)へむかった。ここなら、だれにも見つからない。
 ぶじに個室(こしつ)に入り、便器のフタを上げて、いそいですわった。そのとき、便座(べんざ)もいっしょに上げたまま、気づかずに、こしを下ろしてしまった。
 そして今、ボクはおしりがスポッとはまったまま、動けなくなっていた。
 声を上げて、助けをよぼうか?
 でも、はずかしい。いじめにあってしまう。ネットにさらされてしまう。

 しずかだ。何時間くらいたっただろう。だれも来ない。日がくれて、すっかり暗(くら)くなっていた。
 スマホはカバンの中。そのカバンは手のとどかないドアにかかっている。
 そのうち、お母さんが心配(しんぱい)して、連絡(れんらく)をしてくるかもしれない。警察(けいさつ)がさがしはじめるかもしれない。
 それでいい。たぶん、あしたになれば、だれかが見つけてくれるにちがいない。

 だんだん眠くなってきた。
 そのとき、水がかってに流(なが)れはじめた。ボクのおしりがさらに落ちた。下からひっぱられているかんじだ。
 なに?
 だれ?
 どんどんひきずりこまれていく。このままだと、体がくの字(じ)に折(お)れ曲(ま)がってしまう。
 おしりが濡(ぬ)れ、冷たい。ボクは足をバタつかせながら、ひっしにふんばった。
 水の流れは止まらない。いきおいがはげしくなり、まるで生きているかのようだ。
 もしかして、本当に生きているのかも。

 今まで、ボクたちはトイレのきもちを考えたことがなかった。
 きっと、ボクたちのきたないハイセツブツをくらう毎日にうんざりしていたのだろう。
 これは人類(じんるい)への宣戦布告(せんせんふこく)かもしれない。

 ケダモノの吠(ほ)えるような声が、地のそこからひびいた。
 どうじに、ボクは水の流れとともに吸(す)いこまれていった。