I won't forget

窓の外、夕焼けに染まるグラウンド。
チャイムが鳴ると同時に、教室の窓から差し込む光が、少しだけ赤みを帯びていた。
放課後の空気はどこか緩んでいて、皆の声も楽しげだった。
ただのどこにでもある平和な日常だった。

「なぁ今日ゲーセン寄って帰らね?」
ユウタが笑いながら声をかけてくる。
スマホを片手に、アカリもそれに乗っかる。
「コンビニでアイスも買おうよ!」

私は鞄を肩にかけながら聞く、何気ないこの瞬間が結構好きだった。
みんなで並んで校門を出て、部活帰りの自転車が駆け抜けていく。
空は、だんだんオレンジと藍色がまざって、街の音もどことなく柔らかい。

たわいない話に笑いながら、アーケードでプリクラを撮ったり、駄菓子屋でラムネを買ったり。

「明日提出のプリントちゃんと持ってきた?」
「平日なのに元気だな、お前ら~」
「持ってきたよ~?」

そんな他愛ないやりとりが続く。

日が沈みかけ、そろそろみんな帰ろうか、という頃。
私はふと、鞄が軽い気がして立ち止まる。

「・・・やばい、プリント忘れてきたかも」
「えぇ?もう、天然だなぁ」
「今から戻るのか?もう校舎暗いぞ?」
「ごめん!絶対提出しなきゃいけないの!」
「今からは入れなくね?」
「これ忘れたら今度こそ単位落とすかも!」
「…もう、しょうがないなぁ」
「行くかぁ」
「ありがとう!」

アカリとユウタが眉をひそめるけど、事情を話すと渋々付き合ってくれる。
3人で学校へ戻る道すがら、夕焼けは更に濃くなっていた。

人気のない校舎の廊下に足を踏み入れた瞬間、それまでの笑い声がすっと消えて、遠くでカラスの鳴き声だけが残った。

「…ねぇ誰かいる?」

ふと視線を動かすと、西館の奥に今まで気づかなかった古い木の扉が薄暗く見えた。

一一それがすべての始まりだった。

「なに?なんかいた?」

ユウタが私の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもないよ。」
(気のせいだよね、きっと……)

そう言いながらも、私はどうしてもさっき見えた扉が気になってしまっていた。
でも今さら怖いなんて言い出せなくて、無理やり話題を変えてプリントのことを思い出そうとする。

「ほら、早く行こ。早くしないと追い出されちゃうよ」
「そうだよね」
「さっ行こうぜ」

アカリがさっさと先を歩く。

私達は教室に戻って、机の中を探してみる。
お目当てのプリントは机の奥でグチャグチャになって見つかった。
「あ!あったあった!」
「よかったな」
みんなでホッと笑い合って、もう一度下駄箱へ向かう。

一一その時だった。

廊下を曲がった先、西館に続く分かれ道のところで、ふと私は気になって、足元に何か落ちているのに気がついた。

薄暗いフロアに、古い色褪せた木箱が一つ。
まるで、誰かがわざとそこに置いたように。

「え、なにこれ……?」

思わず手にとると、木箱の表面に奇妙な模様が刻まれていた。鍵穴も錆び付いて、触るだけで粉が落ちてきた。

「いや、触んなって。それ、絶対なんかヤバいだろ」

ユウタがビビり気味に首を竦める。アカリも訝しそうな目で木箱を見つめている。

でも、どうしても目が離せなかった。
いつからか明確には分からないほど昔から"ここには近づくな"と噂されて、言われてきた西館。子供じみた好奇心と、言葉では表せない不安が心の奥で入り混じる。

「これ、誰かの落とし物かもしれない……」

私はそう言って、木箱をそっと持ち上げた。
そう言いながらも、本当は違った。

目を逸らそうとしても、どうしても気になってしまう。
まるで――“開けてほしい”と、呼ばれているみたいで。

「……ちょっとだけ、中身確認するだけ」