泥団子みたいな私の恋

放課後、教室。

「なあ、美瑠」

珍しく、海翔の方から声をかけてきた。

「ん?」

振り向くと、少しだけ言いにくそうな顔をしている。

「……俺さ」

言葉が続かない。

「相模のこと、気になってる」

胸が一瞬で冷える。

(ああ、やっぱり)

分かってたはずなのに、どこかで期待していた自分がいた。

「そっか」

平静を装う。
でも、海翔は続けた。

「でもさ」

少しだけ視線を逸らす。

「美瑠とも、ずっと一緒にいたじゃん」

その言葉に、心臓が強く跳ねる。

「だから……なんか」

困ったように笑う。

「簡単に割り切れねえっていうか」

(……ずるい)

期待させる言い方。
でも、それでも。

「いいんじゃない?」

私は先に逃げた。

「好きなら、そっち行けば」

一歩引く。

「私は、別に」

嘘だった。
でも、それ以上は言えなかった。
海翔は少しだけ黙って、

「……悪い」

そう呟いた。




放課後の静まり返った校舎。階段の踊り場で、私は見てしまった。

​「相模さん。……俺と、付き合ってほしい」

​ 海翔の、聞いたこともないような真剣な声。
 対する椋は、申し訳なさそうに、けれどはっきりと首を振った。

「ごめんね、海翔くん。私、他に好きな人がいるの」

​ あえなく散った、海翔の初恋。
膝をつき、肩を落として暗く沈み込む彼の背中を見て、私は動けなかった。

(チャンスだ)

 頭の片隅で、汚い自分が囁く。
今行けば、彼を慰められる。彼の心の隙間に入れる。
 ……けれど、私にはその度胸がなかった。
 彼がどれほど真剣に椋を想っていたかを知ってしまった今、私の「偽物の笑顔」では、彼を救えないと悟ってしまったから。