泥団子みたいな私の恋

「あの……その、ごめん」
 夕闇が迫る帰り道、私は絞り出すように言った。

「え? 何が?」
「……今まで、あんたに意地悪しちゃったから。プリント最後に回したり、無視したり……」

​ 白状してしまえば楽になれると思った。けれど、椋はきょとんとした顔で首を傾げた。

「え? 意地悪? そんなのしてたっけ?」
「……え?」
「あはは! 美瑠ちゃんって、ちょっと不器用なツンデレさんなんだなーって思ってたよ。可愛いよね、猫みたいで」

​ そう言って、椋は私の頭をよしよしと撫でてきた。
 ……完敗だった。私が夜も眠れずに練った陰湿な計画は、彼女の圧倒的な善意の前では、ただの「じゃれつき」にしか見えていなかったのだ。

​ けれど、翌朝。教室で海翔の顔を見た瞬間、冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
 海翔の視線は、相変わらず椋を追っている。

(……海翔は、椋が好きなんだ)

 その事実だけは変わらない。私は椋への罪悪感を胸の奥に押し込み、新たな作戦に出た。

​ 海翔が椋に話しかけようとすれば「椋、トイレ行こ!」と彼女を連れ去り、椋が海翔に近づこうとすれば「海翔、先生が職員室で呼んでたよ」と嘘ではない情報を滑り込ませる。
 そんな姑息な立ち回りを繰り返す自分に、吐き気がするほどの自己嫌悪を覚える。

​(私、なんでこんなことしてるんだっけ……)


ふと、記憶が幼いあの日へと引き戻される。

​ 幼稚園の砂場。私の泥だんごを壊し、容姿を嘲笑った男の子たち。
 あの時、海翔が助けてくれたのは、単なる正義感だったのかもしれない。けれど、泣きじゃくる私に、彼は自分のポケットからクシャクシャのティッシュを取り出して言ったのだ。

​「美瑠ちゃんは、笑ってる顔が一番可愛いよ。俺、美瑠ちゃんの笑った顔、守ってあげる」

​ その言葉が、私の呪いであり、光だった。
 「可愛い」と言ってくれた彼に、本当の意味で「可愛い」と思われたくて、私は血の滲むような努力をしてきた。勉強も、メイクも、ダイエットも。すべては、あの砂場での約束を、今の彼にもう一度言ってもらうため。

​(……そうだ。私は、彼に笑いかけてほしいだけなんだ)

​ 小細工はやめよう。
 真っ直ぐに、今の自分を見てほしい。
 そう決心して海翔を探しに行った放課後――私の世界は、音を立てて崩れた。