泥団子みたいな私の恋

保健室の白いカーテンが、夕方の風にふわりと揺れる。
海翔と椋の楽しげなやり取りに、私は必死で食らいついた。まるで、そこが自分の居場所だと証明するかのように、中身のない相槌を打ち続ける。

​「あ、もうこんな時間! 海翔くん、送ってくれてありがとう。もう大丈夫だよ」

 椋がベッドから身を起こした。足の怪我は、もうそれほど痛まないらしい。

 学校を出て、いつもの分かれ道のコンビニまで歩く。海翔は心配そうに「本当に家まで送らなくていいのか?」と何度も口にしていた。

​「いいってば! ここからは美瑠ちゃんとのガールズトークの時間だもんね?」

 椋が私の腕に、迷いなく自分の細い腕を絡めてきた。

「えっ……」
「あ、美瑠ちゃんって呼んでもいいかな? ダメ?」

 首をこてんと傾けて覗き込んでくる。その無防備な瞳に気圧されて、私は「……うん、まあ」と、可愛くない返事をするのが精一杯だった。
​ 結局、椋の押しに負ける形で、海翔は「じゃあ、早瀬。相模のこと頼むな」と言い残して去っていった。
 残されたのは、私と、私の「恋敵」のはずの女の子。

​「……で、何? 相談って」

 隣を歩く椋に、私は低めの声で促した。海翔を帰してまで話したいこと。どうせ「海翔くんってどんな子がタイプなの?」なんて惚気まじりの質問が来るに決まっている。私は心のシャッターを半分下ろして、彼女の言葉を待った。

​「好きな人がいるの」

(知ってる。海翔でしょ)

そう思ったのに。

「大学生なんだけど」

――は?

思考が止まる。


「大学生? 海翔じゃなくて?」
「えっ、海翔くん!? 違うよぉ、海翔くんは面白いお友達って感じかな。……私の好きな人は、私のお気に入りのカフェによくいる人で。初めて会ったときからからずっと忘れられなくて……」

​ 夕焼けに照らされた椋の頬は、保健室で海翔と笑い合っていた時よりも、ずっと深く、熱を帯びた赤色に染まっていた。
 それは、鏡の前で毎日恋に悶えている私自身の顔と、酷いくらいに似ていた。

​「どうしたら振り向いてもらえるかな? 美瑠ちゃん、海翔くんとあんなに仲良しでしょ? 男心に詳しそうだから、教えてほしくて」

​ 真っ直ぐな、混じりけのない信頼の瞳。
 私は、眩しさに目を細めた。
 私が今まで彼女に向けてきた「インクの切れたペン」や「意地悪な視線」が、どれほど惨めで、独り相撲だったのか。
 突きつけられた現実に、私はただ、言葉を失って立ち尽くすしかなかった。