文化祭の準備期間、私は卑怯な自分を止められなかった。
看板作りをしている椋に、私はわざとインクの掠れたマッキーを手渡す。
「ごめん、それしか残ってなくて」
「あ、本当だ。ありがとう、頑張って出してみるね!」
椋は困ったように笑い、何度もペンを振る。その健気な姿を見ていると、自分の心がどんどん黒く濁っていくのが分かった。
文化祭当日。私は自分の仕事をマッハで終わらせ、海翔の元へと駆け出した。
階段を駆け下りると、聞き慣れた楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「あはは! 海翔くん、それ似合わないよ」
「うるさいな、これクラスの出し物なんだから仕方ないだろ」
踊り場の陰から覗くと、そこには少し頬を桃色に染めて笑う海翔と、その隣で花が咲いたように笑う椋がいた。
心臓が、嫌な音を立てて脈打つ。
私はそれを無視して、強引に二人の間に割って入った。
「海翔! 終わったよ、一緒に回ろう?」
「あ、美瑠……。ごめん、今ちょうど相模さんと……」
海翔が言いよどむ。彼は、椋を誘おうとしていたのだ。その事実に頭が真っ白になる。
「いいじゃん! 楽しそう! いっておいでよ、海翔くん」
椋がひょいと顔を出し、上目遣いで海翔を覗き込んだ。
(やるじゃん……)
内心で毒づく。その仕草がどれほど男に効くか、鏡の前で研究してきた私には痛いほど分かる。案の定、海翔は一瞬視線を泳がせ、「……わかった。じゃあ、行こうか」と私に頷いた。
念願の、海翔との文化祭。
けれど、横を歩く海翔の心はここにはなかった。
「ねえ、今の展示すごかったね」
「ああ……そうだね」
生返事。彼は時折、後ろを振り返る。そこにはもう、椋はいないというのに。
あんなに望んだ時間なのに、初めて「早く終われ」と神様に願った。
廊下の向こうで、誰かと目が合った気がした。
少し日焼けした先輩。
一瞬だけ、視線がぶつかる。
なのに。
なぜか、胸の奥がざわついた。
(……誰?)
考える前に、もういなくなっていた。
看板作りをしている椋に、私はわざとインクの掠れたマッキーを手渡す。
「ごめん、それしか残ってなくて」
「あ、本当だ。ありがとう、頑張って出してみるね!」
椋は困ったように笑い、何度もペンを振る。その健気な姿を見ていると、自分の心がどんどん黒く濁っていくのが分かった。
文化祭当日。私は自分の仕事をマッハで終わらせ、海翔の元へと駆け出した。
階段を駆け下りると、聞き慣れた楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「あはは! 海翔くん、それ似合わないよ」
「うるさいな、これクラスの出し物なんだから仕方ないだろ」
踊り場の陰から覗くと、そこには少し頬を桃色に染めて笑う海翔と、その隣で花が咲いたように笑う椋がいた。
心臓が、嫌な音を立てて脈打つ。
私はそれを無視して、強引に二人の間に割って入った。
「海翔! 終わったよ、一緒に回ろう?」
「あ、美瑠……。ごめん、今ちょうど相模さんと……」
海翔が言いよどむ。彼は、椋を誘おうとしていたのだ。その事実に頭が真っ白になる。
「いいじゃん! 楽しそう! いっておいでよ、海翔くん」
椋がひょいと顔を出し、上目遣いで海翔を覗き込んだ。
(やるじゃん……)
内心で毒づく。その仕草がどれほど男に効くか、鏡の前で研究してきた私には痛いほど分かる。案の定、海翔は一瞬視線を泳がせ、「……わかった。じゃあ、行こうか」と私に頷いた。
念願の、海翔との文化祭。
けれど、横を歩く海翔の心はここにはなかった。
「ねえ、今の展示すごかったね」
「ああ……そうだね」
生返事。彼は時折、後ろを振り返る。そこにはもう、椋はいないというのに。
あんなに望んだ時間なのに、初めて「早く終われ」と神様に願った。
廊下の向こうで、誰かと目が合った気がした。
少し日焼けした先輩。
一瞬だけ、視線がぶつかる。
なのに。
なぜか、胸の奥がざわついた。
(……誰?)
考える前に、もういなくなっていた。


