泥団子みたいな私の恋

胸の奥で、黒いドロドロとした感情が鎌首をもたげる。
 私は、私を嫌いにならないために、彼女に小さな「復讐」を始めた。

​ プリントを渡す順番を、わざと一番最後にする。

たったそれだけ。
でも、それだけで十分だった。

(しょうもない)

分かってる。
分かってるのに、やめられない。

 海翔が彼女に話しかけようとする絶妙なタイミングで、「ねえ、海翔くん! ここの数学教えて?」と割って入る。
 海翔と楽しそうに会話ができている瞬間だけ、私は彼女に向けて、勝ち誇ったような視線を送った。

​(どう? 私の方が、ずっと長く彼のそばにいるんだから)

​ けれど。
相模椋は、そんな私の幼稚な嫌がらせに気づかない。

​「早瀬さん、プリントありがとう! 助かっちゃった」
「二人が仲良しなの、なんだか素敵だね」

​ 彼女は、毒を向けられていることすら知らないような、真っ白な笑顔で私を呼ぶ。
 その笑顔が、私の塗り固めたメイクを一枚ずつ剥ぎ取っていくようで、たまらなく苛立ちが募る。

​ ――ねえ、椋。
 あなたは知らないでしょう。
 あなたのその「無垢」な笑顔が、どれだけ私を醜く変えていくのかを。