泥団子みたいな私の恋

息が切れる。
足がもつれる。
それでも止まれなかった。

​「櫂先輩――っ!!」

振り向いたその顔は、いつも通りで。
――いつも通り、少しだけ笑っていた。

「お、美瑠。どうした、そんな…」

息がうまく吸えない。
でも、止まれなかった。

「……違うんです」

遮る。

「私、ずっと勘違いしてて」

言葉が震える。

「あの時、助けてくれたの、先輩だったのに」

櫂は、一瞬だけ目を伏せた。
でもすぐに、いつもの顔に戻る。

「……そっか」

軽い声。
何でもないみたいな、声。
その温度の低さが、逆に刺さる。

「私、全部間違ってて……」
「うん」
「違う人見て、違う人のために頑張ってて……」
「うん」

全部、受け止めるくせに。
何も返してこない。
怖くなる。

「……もう、遅いですよね」

やっと、出た本音。
笑おうとするけど、失敗する。

「今さら気づいても、迷惑ですよね」

沈黙。
少しだけ風が吹く。

櫂は、ゆっくり息を吐いた。

「……うん」

少しだけ間があった。

「遅いよ」