泥団子みたいな私の恋

夏休みを三日後に控えた、湿り気を帯びた午後。
 私は母に急かされ、リビングのクローゼットを整理していた。

​「美瑠、これ、あんたが幼稚園の時のじゃない?」

 母が差し出したのは、埃を被った一冊の卒園アルバムだった。

​「懐かしいー!」

 私は手を止め、ページをめくった。そこには、まだメイクの「メ」の字も知らず、コンプレックスに怯える前の、無邪気な私がいた。
 そして、砂場の写真で指が止まる。

「……嘘」

アルバムを持つ手が震える。

砂場の写真。
泣いている私。
その隣で、泥だんごを掲げて笑っている男の子。

 ――それは、海翔じゃなかった。

​「湊崎 櫂」

 名簿の名前をなぞった瞬間、心臓が大きく跳ねた。

​「……なんで」

 喉が詰まる。

どうして今まで気づかなかったのか。
どうして、間違えたままここまで来てしまったのか。

​ あの日、「綺麗だ」と言ってくれたのは、あの人だったのに。

​ 私は、その人じゃない誰かのために、全部を使ってきた。

​「……私、何やってたの」

笑おうとして、失敗する。
頬が濡れていた。
​勉強も、メイクも、ダイエットも。
全部、誰かに選ばれるためだった。
でも、その「誰か」すら、間違えていた。

​「……最悪」

 ぽつりと零れた本音は、自分でも驚くほど冷たかった。
​ それでも――

​「……会いたい」

 それだけは、はっきりしていた。