泥団子みたいな私の恋

数日後。どんよりとした空気のまま、私は先生に頼まれた資料を抱えて三年生の廊下を歩いていた。
 視界が塞がっていたせいか、曲がり角で誰かと強くぶつかってしまう。

​「あわわっ……すみません!」

 バラバラと散らばる資料。情けなくて涙が出そうになりながら、急いで這いつくばって紙を集める。
 すると、視界の端に、少し日焼けした逞しい男の人の手が伸びてきた。

​「大丈夫? 派手にいったね」

​ 顔を上げると、そこには優しく目を細めて笑う、見知らぬ先輩がいた。
 海翔の優しさとは違う、もっと大人びた、包み込むような空気。

「……はい、大丈夫です」

目を逸らす。
その視線が、少し怖かった。

「無理してる顔してる」
「してません」

即答すると、先輩は少しだけ笑った。

「昔からそうだな」
「……え?」

思わず顔を上げる。

「え、何がですか」
「いや」
「なんでもねえ」

一瞬だけ言い淀む。
でも、その目は——
どこか懐かしそうだった。

(なんなの、この人)

海翔とは違う。優しいのに、甘くない。
その違和感が、胸に残った。


​ 資料を運んでくれた先輩と少しだけ会話をしながら、教室まで送ってもらう。

「な、名前なんていうの?」
「…早瀬美瑠です」
​「湊崎 櫂だ。よろしくな、美瑠ちゃん」

 彼は、出会ったばかりの私を迷いなく名前で呼んだ。
少しだけ気まづい空気のなか、お決まりの会話をする。

「天気、いいですね」
「え?今日雨じゃん。雨好きなん?」
「いや、…まぁ、はい」

より気まづくなったような気がする。
会話が止まるより先に会話を投げ掛ける。

「好きなこと…とか、ありますか?」
「好きなこと? サーフィンかな。今度見せてやるよ。来週の土曜とかどう?」
「えっ、あ、あの……」

 戸惑う暇さえ与えない圧倒的な陽のオーラ。廊下を歩けば「おい櫂! 彼女か!?」「まだだよ!」「『まだ』って言ったぞ!」なんて野次が飛ぶ。彼はそれを笑い飛ばしながら、私の歩幅に合わせて歩いてくれた。

それから三日後。
放課後のコンビニで、また会った。

「……あ」
「またか」

まるで当たり前みたいに、隣に立つ。

「最近、ちゃんと寝てるか?」
「……寝てます」
「嘘だな」

即バレる。
少しムッとする。

「なんでそんな分かるんですか」
「顔に出てる」

短い言葉。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
その帰り道。
校門の前で、三度目。

「ストーカーですか」
「お前がよくここ通るだけだろ」

軽く笑う。
その空気に、少しだけ肩の力が抜けた。

「そういえばさ」

 櫂先輩がふと呟く。

「泥とか触ったこと、最近あるか?」
「……泥?」

意味が分からない。

「昔、めっちゃ作ってただろ」
「え?」

一瞬、引っかかる。
でも思い出せない。

「……人違いじゃないですか」
「かもな」

そう言いながら、少しだけ笑った。