恋愛初心者①〜落とし物から始まる恋〜








 梅雨入りしてから毎日のように降っていた雨がウソのように晴れた今日、中学生になってから初めての体育祭が開催された。

 不死鳥の絵は安西師匠たち美術部の先輩によって校舎の目立つ場所にはり出されている。


 競技の方は……大丈夫だと思う。騎馬戦で全員から狙われるのは変わってないけど阿部さんの指示に従うとほぼ確実に勝てるから。

 借り物競走は、練習のときに他の二人に比べて難しいお題ばっかり引いちゃったから、きっと今日は運がいいはず。


 白兵戦は一番自信ある。空気かなってくらい狙われないんだよね、わたし。阿部さんや神田くん、秦くんが強敵としているからだと思うけど、奇襲攻撃がしやすくて助かってる。

 それを喜んでいいのか、悲しんでいいのかはわかんないけどね。






「空ちゃーん! 借り物競走、始まっちゃうよー!」
「あ! ありがとう!」
「いーえ! がんばってね!」
「うん!」


 わたしが浸っている間に、徒競走は終わっていたみたい。
 声をかけてくれた阿部さんにお礼を言って、出場者列に並んだ。


 わたしは第三走者。
「よーい……スタート!」

 空砲とほぼ同時に同じグループの人たちが走り出した。わたしはというと、音にビックリしたせいで遅れちゃってる。


 一位には大きく点が入るから、なんとしてでもいいお題を引きたい。
 最後に残っていた紙を開くと【大切なもの】と書いてあった。

 どうしよう……。大切なものなんて、ありすぎて逆に難しい。
 家族もだし、学校のクラスメイトもだし、部活もだし、安西師匠も大切。

 悩んだ結果、わたしは先生のスペースに向かった。

「羽場先生!」
「お、おう……」

 わたしの勢いが思ったよりあったみたいで、羽場先生も、近くにいた先生もビックリしている。


「おねがいします!」
「一位取るぞ」
「はい!」

 羽場先生は国語担当とは思えない俊足だった。わたしの手を掴んで走るから浮いちゃうかと思ったほど。
 でも、そのおかげで前を走っていた二組を抜けて一位でゴールできた。


「はーい、一人ずつ係にお題見せてね」

 全員がゴールすると、それぞれが借りてきたものとお題があっているか、実行委員の人がチェックする。これでOKが出るとゴールした順位分の点がもらえるんだ。

 過去に一位でゴールするためにお題と違うものを持ってきて最下位になったクラスもあるんだとか……。


 わたしも、緊張してきた。『もの』ってひらがなで書いてはあったけど、『物』のタイプミスだったらアウトになっちゃうし……。

 いやそんなことないと思うけどね、でも不安になるんだ。



 お題と借りてきたものがあっているか判断する人が二度見三度見ってしてくると。

「えっと……これはどういう意図で?」
「わたしの大切なものは……A組です。ただ、全員連れてくるとレーンをはみ出してしまうので代表として担任の羽場先生を……」

「ああ……そういう……」
「中学生はないない。冤罪だ」


 どうやらこのお題で羽場先生が連れてこられたから、羽場先生とわたしが生徒と教師をこえた仲なんじゃないかってカン違いしちゃったみたい。

 ここはさらなる誤解を防ぐために二人で思いっきり否定しておいた。


「A組、牧野空さんオッケーです」
 一位の列に案内されると、同じく一位を取っていた斎藤くんとハイタッチで喜んだ。
 お題は【絵が上手い人】。美術部部長でイラストレーターの安西師匠を連れてきていた。

「空は、A組が大切なの?」
「うん。大好き」
「いいよね、A組。ぼくも好き」

 わたしと同じように、斎藤くんもA組に救われた一人らしい。
 あがり症でなかなか人と目を合わせて喋れないし、話せてもテンポが悪くてみんな離れてくけど、A組はそんなことないからって。


「わかる。A組って十人しかいない上にクラス替えが三年ごとだからめっちゃ仲よくなるよね。学力が頭一つ抜けてるから編入してくる人も全然いないし。僕もうちのクラス好きだよ」
 借り物ならぬ借り者の安西師匠も、斎藤くんに同意した。


「生徒がクラスを好きと言ってくれるなんてっ……!」

 わたしの借り者、羽場先生は歓喜に涙していた。
 ここで同年代の先生がいたら肩を組みそうだけど、生徒のわたしたちにやるのはアウトだってわかってる。行き場をなくした手がわっきゃわっきゃと動いていた。


 借り物競争の結果は一位を三人出したA組の勝利。
 そのあとに出た騎馬戦も阿部さんやみんなのおかげで一位。

 学年種目は、わたしと斎藤くんペアは準々決勝で敗退しちゃったけど、秦くんと神田くんペア、桐谷くんと阿部さんペアが勝って、総合二位。


 三年生の学年種目と障害物競争2、白兵戦、選抜リレーを残してお昼休憩に入った。

 あとわたしが出ないといけないのは白兵戦だけかな。


 プログラムを確認すると、午後の一発目は障害物競走2。
 食堂は混むだろうから、ちょっと遠いけど教室に戻ろうかな。