体育祭の案内が配られた翌日から、体育の授業が体育祭の練習になった。一年生の全クラス合同で、種目ごとに練習するんだって。
でも、Aクラスは一人あたりの出場種目が多い。だからみんな、やりたいところに行った。
運が絡む借り物競走は当日レーンの確認するくらいで大丈夫だと思ったので、わたしはこの期間内、騎馬戦と白兵戦の練習をすることにした。
学年種目はまた別で時間が取られてるからね。
わたしが騎馬戦の練習をするとなると、わたしと同じグループの阿部さんや秦くん、桐谷くんも参加しないといけない。
でも、「初等部で慣れてるから」と言って付き合ってくれることになった。
そして、さっそく問題にあたってる。
騎馬戦は四人一組で三人が馬、一人が騎手役なんだけど、騎手役を阿部さんにするか桐谷くんにするかで揉めちゃったんだ。
身長を考えると、わたしと秦くんは下決定なんだけど……。
お仕事があるから桐谷くんは下ダメだって阿部さんが主張してるの。ケガしたらどうするのって。
桐谷くん本人は、裸足の中学生一人持ち上げられないほど非力じゃないし、見た目のわりに筋肉あって重いからって言って阿部さんを推し続ける。
結局、馬のバランスを取るために身体能力がズバ抜けている阿部さんを騎手にすることで話がまとまった。話し合いが長引きすぎて、周りの二倍くらいかかってたと思う。
お互いがお互いを思いやった結果だから仕方ないのかな。
馬役は桐谷くんと秦くんという足が速い人たちだから、がんばろう。
騎馬戦は前二人後ろ二人で、前の方が体重をかけられるから負担が大きいみたい。
「前、わたしやってもいいかな」
阿部さんくらいの体重は支えられるし、前が見えなさそうで後ろはちょっと怖くて。
「俺はいいよ」
「僕も別に構わないです。運動オンチではなさそうでしたし」
秦くんも桐谷くんも、わたしに合わせるからって言ってくれた。阿部さんも指示は任せてって言ってくれた。
これは、なんとかなりそう。
「まずは赤い弾丸をツブそう。話しはそれからだ」
…………全員から狙われなければね。
「空ちゃん右!」
「うん……!」
「次あっち!」
「あっちってどっち!?」
「左ななめ前!」
阿部さんの指示する通りに逃げたりつっこんだりするのは想像以上に大変だった……。
練習でこんなになっちゃってるのに当日大丈夫かな、わたし。
放課後は部活でパネル作り。
体育祭のパネルテーマは体育祭実行委員会と美術部部長の話し合いで決まるんだけど、今年は不死鳥。
「安西くんならできるでしょ」って無茶振りされて、安西師匠は「任せとけ」って即答したってドヤ顔してた。
引き受けたその日に鉛筆でアタリが取られていたから、わたしたちの仕事は安西師匠の指定した場所に色を乗せていくだけなんだ。
太めのペンで線も入れないといけないけど、今回使うアクリル絵の具って下の黒も消しちゃうんだよね。だから先に色を入れて、安西師匠がアドリブで線画を描くみたい。
さすがプロです……。わたしもいつか、このレベルができるようになりたいな。
「牧野さん、次ここお願い」
「はい!」
「誰か朱色の在庫持ってきてー」
「あ、オレ行ってきます。他なにかありますか?」
「じゃあブラシお願いしていい?」
「わかりました」
こんな感じのやり取りを繰り返して、他の部活の先輩たちにも手伝ってもらいながら作業すること二週間。
「……ほんとにやったんだな、安西」
「僕のプライドあんま舐めない方がいいよ。富士山より高いから」
完成品を見に来た体育祭実行委員の先輩が、ポカンとしていた。
わたしのやったことなんて、線にそって色を落としたくらいだけど、ここまでビックリしてもらえるとうれしい。
「それじゃ。無茶振りに協力してくれたみんな、そこの自販機でなんか好きなの一本分出してあげる」
「やりぃ! がんばってよかったー!」
「一年生もいいよ」
「ありがとうございます!」
「ほら、神田くん行こー」
「あ、うん」
一斉に昇降口にある自動販売機に向かった。廊下は走っちゃいけないから早歩きで競歩みたいになってるの、シュールでおもしろいかも。
「あれ、空は?」
一人残ったわたしを見て、安西師匠が首をかしげた。
「わたしは安西師匠に胸を張れる結果を出せるまではやめときます」
せめて自分だけでこのレベルを描けるようになってから。今回わたしがやったのは、ぬりえと変わんないから。
「そう? まあ、空がそう言うならこれで」
「……?」
安西師匠から渡されたのは塩分タブレット。
「最近暑いから。優しい師匠からのおすそ分けね」
「……! ありがとうございます!」
「いーえ。あと、昨日くれたイラストデータは明日までにはコメントつけて返すよ。それじゃ、気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます。さようなら」
手を振ってくれた安西師匠と実行委員の先輩に一礼をして学校を出る。
昨日降った雨で外は少し蒸し暑い。
「うん、おいしい」
もらった塩分タブレットを口に入れて、家に帰った。
