「空ちゃん! この前のデートどうだった!?」
「空から見て、宗介はどんな感じだった?」
登校したわたしは、阿部さんと斎藤くんに質問攻めにされていた。
阿部さんは好奇心だと思うけど、斎藤くんは恋愛小説の参考にしたそう?
むりむりむり……。斎藤くんの参考になりそうな行動がなにひとつ思い出せない。
付き合って初めてのお出かけだったのに、わたしがリクエストしたのは手芸屋さんと本屋さん。しかも、秦くんと一緒にいるのに本の話ばっかりしてた気がする……。
秦くんについてのことなら話せるけど、勝手に話したらイヤな気持ちにさせちゃうかもしれない。
鮮明に思い出そうとすればするほど、昨日のわたしの非常識さが目立って落ち込んできちゃう。
「ちょっと。空は俺の彼女なんだからそんなに近づかないで」
「簡単に触れられる距離にはいない。だから大丈夫」
「あたしと空ちゃんは友達だから、くっつくのはフツーのことだよ」
そう言いながら、さっきよりも距離を詰めてきた阿部さんにぎゅーっと抱きしめられた。
もうちょっとお手やわらかに……。
「それで。二人ともなに聞いてたの?」
酸欠で顔が熱くなる前に、秦くんが救出してくれた。
「「初デートのこと」」
「……私服、かわいかった。これ以上は俺たちだけの秘密だから教えない」
「空ちゃんの私服! いいなー」
この間の別荘にも制服で行ったからまだ秦くんと神田くん以外わたしの私服知らないんだよね。おしゃれに無頓着だったから……。
でも、かわいいって言ってもらえてよかった。次は候補にあったもう一着だけど、その次はどうしよう。お母さんが買ってるファッション誌とか見させてもらって勉強がんばらなきゃ。
「席つけー。ホームルームするぞー」
話してたらチャイムが鳴って、羽場先生が教室に入ってきた。
「とりあえず、テストお疲れさん。答案用紙返すから授業のときに絶対持ってこいよ。持ってこないと採点ミスとか対応できないから」
返された答案用紙は授業で採点ミスがないのを確認するまではリュックから出さないようにしよう。
「じゃあ出席番号一番から。阿部茜」
「はい!」
「最後、牧野空」
「はい」
「なかなかやるな。次もがんばれ」
「……! ありがとうございます……!」
点数と順位が書かれた表を見て、羽場先生はそう言ってくれた。
全教科百点……とはいかなかったけど、学年四位だった。
特別推薦枠で入学したら出席率九割かつ学年で十位以内(Aクラス在籍)の維持で学費が免除になるから、この調子でがんばろう。
テスト直しの予定はどうしようかな。
英語、秦くんに教えてもらったけど最後の問題が英語で自己紹介をするっていうので、単語の知識不足でちゃんと書けなかったんだよね。
あとは英文の読解でミスしちゃってる。これは文法かぁ……。
やっぱり参考書とかラジオだけじゃなくて、英文の本とか読まないとどうにもならないかな。
中学生用の単語帳に載ってない単語は問題文の下の方に書いてくれてるんだけど、自分で文章作るってなると難しいからね。
あと間違えてるのは理科だ。
授業内でやったことは合ってるんだけど、オマケ問題で出されてた『我が校の校章には麦があしらわれていますが、麦の花言葉はなんでしょう』で間違えちゃったみたい。
こんな問題も出るの!? ってテスト中にあせったのは記憶に新しい。
見た目から連想しようとがんばったんだけど、どうしても加工後の姿が思い浮かんできてね……。ピザとかパンとかパスタとか……。
結局時間が足りなくて『穀物』って書いたんだけど、やっぱり間違えてた。
今見たら恥ずかしすぎる……!
世界三大穀物のひとつなんだから穀物なのは当たり前だって!
それ以外は特に間違いはなかった。採点ミスがなければの話だけどね。
「空ちゃん、ありがとう! おかげで九十点代取れたよー!」
朝のホームルームが終わったあと、阿部さんがオレンジジュースを持ってきてくれた。
果汁100%の、ちょっと高いジュース。
「これ、もらっちゃっていいの?」
「うん! 勉強に付き合ってくれたみんなに渡してるから!」
じゃあ、もらおうかな。
「ありがとう、阿部さん。またいつでも聞いてね。いくらでも教えるから」
「えへへ、ありがとう!」
阿部さんに間違った知識を教えるわけにはいかないって思ったら自分の勉強もがんばらなきゃって思えるから、毎日聞いてくれてもいい。
教えながら自分のわからないこともハッキリしてくるし。
「じゃあ……今日のホームルーム終わったあとに図書室でテスト直ししない?」
「うん、テスト直し期間で部活はないし、借りたい本もあるから大丈夫」
「どんな本?」
「あ、秦くん。英単語の知識不足が課題かな〜って思うから、英語の本を借りるつもりだよ」
「英語の本……」
あごに手を当てて考える仕草をする秦くん。絵になるなぁ……。
「最後の長文問題ができなかったなら英字新聞がおすすめだよ。日本で発行されてるのもあるし、単語自体もわかりやすくされてるから」
英字新聞か……。たしかに。小説は作家さんの手くせが出るけど、新聞は大衆向けだから勉強って意味だったらそっちの方がいいのかな。
「中学の図書室だと週一くらいだっけ」
「うん。月曜日に切りかわってた」
秦くんが後ろにいた斎藤くんに話をふって確認した。
斎藤くんは図書室マスターって言われるくらいたくさん本を借りてるんだって。小説の資料にできそうな入門書とかいっぱいあって勉強になるからかな。
「教えてくれてありがとう。挑戦してみるね」
最初は英和辞典とにらめっこしながらになると思うから、一つの記事を理解するのに数十分かかりそうだけど……継続は力なりって言うからね。気合いと根性でルーティーンに組み込もう。
「空ちゃんって意外と根性論派というか、脳筋だよね?」
え!? なんでバレたの!? 口に出してないよね!?
「全部顔に出ちゃう空ちゃんも大好きだよ〜!」
自分よりも小柄でかわいい女の子によしよし、と頭をなでられるのは少し恥ずかしかった。
「帰りのホームルームを始める。もうそろそろ夏休みに入るから、改めて連絡を」
その日のホームルーム。
羽場先生からプリントが配られた。
「入学式の日に渡した年間予定表にも書いてあったと思うが、終業式の日の午後から強化合宿を行う」
強化合宿。
初めての学年行事。
学校を離れて別の場所で勉強をする。
最終日には実力テストがあるみたいだから、今度こそ英語と理科満点を目指そう。
