恋愛初心者①〜落とし物から始まる恋〜



 一泊二日の旅行を終えて、わたしたちは学校近くまで帰ってきた。ここからそれぞれ電車や車で帰る予定。


 目的だった海のスケッチもできたし、秦くんのか、彼女にもなれた……!


 「実の兄を好きになったらどうする?」ってことについては聞けずじまいだけど、いつか話してくれたらうれしいな。

 空にならって思ってもらえるように、がんばらなきゃね。



 新幹線の席は、秦くんの隣だった。

 わたしがあげたお守りをずっと握っていて、カバンに付けないのか聞いたら「握ってると安心する」って。
 これは必勝お守りだけど、心身の健康を願うお守りを作った方がいいかな。


「なら、今度は二人でやらない? 俺が空の分を作るから。空は俺の分作ってくれる?」
 提案したら、秦くんがそう言ってくれた。

 お互いのお守りを作る……考えただけでも幸せになっちゃう。


「うん! お休みはあと二日あるから、手芸屋さんに行って布選びだけしよう」
 作るのは部活の休みが被る日で、大きい机があるA組の教室で大丈夫だよね。

「明後日は椋ん家の家事やらないとだから、買い物は明日の十時半ごろでもいいかな」
「もちろん大丈夫だよ」

 スケジュール帳に予定を書いていると、阿部さんがニマニマしてわたしを見ていた。


 そして、斎藤くんを見て一言。

「これ小説にしてくれたら三冊ずつ買うよ」

「恋愛小説は書いたことないけど、まあ……検討してみる」



「「恥ずかしいからやめて!?」」

 自分たちのことが推し作家の手で小説になったと知ったら、顔から火を吹くどころじゃすまない。そのまま蒸発する自信がある。

 でも二人ともニヤニヤしながら「えぇ?」とか「どーしよっかな」とか言ってるから、わたしたちの訴えが響いたかはわからない。

 ファンゆえに、斎藤くんのプロットが企画会議を通らないように祈ることもできない。


 斎藤くん、信じてるよ!

 斎藤くんにはちゃんと良心があるって!

 信じてるからね!

 フリじゃないからね!


 二十分くらい抵抗してようやく斎藤くんが折れてくれた。


 ふう……。
 お守りは早めに作りたいな……。

 作家側が根負けして阿部さんがフグみたいになってるけど、こればっかりはゆずれない。

「恋愛小説か……」
 斎藤くんも一回やる気になったら突き進むタイプみたいで、アイディア出しを始めた。

 モデルがわたしたちじゃなかったら、発売日に並びます。





 翌日、わたしと秦くんは学校近くにある手芸屋さんに行った。


「空は何色が好き?」
「わたしは黄色が好きだよ。秦くんは?」
「俺はブラウン系かな……」

 ふたりで生地と刺繍糸、お守り紐を選んでお店を出た。

 秦くんが選んでくれたわたしの生地は、黄色ベースに白の水玉模様。刺繍糸はブラウン。
 わたしが選んだ秦くんの生地は、無地のブラウン。刺繍糸は金色。

 お守り紐は赤で統一することにした。


「ちょっと早めだけど、お昼ご飯食べに行く?」
「うん、秦くんのおすすめってある?」

「ここから電車で一駅行ったところに、美味しいパスタのお店があるんだけど、どう? 種類はそんなに多くないんだけど、パスタ以外のメニューもよかったよ」

 そう言いながらスマホでお店の詳細を見せてくれた。検索履歴の一番上にあったけど、調べてきてくれてたのかな。


 おしゃれなカフェって感じだけど、お値段は中学生でも手が届きやすい。

「行きたい!」
「じゃ、行こっか」

 うっ……かっこよすぎる……!
 無地のTシャツに黒のスラックスっていうシンプルなコーデなのに、手を差し出してくれる姿は王子様みたい。背景に青バラが見える気がする。


「は、はい」
 思わず敬語になっちゃうくらい。
 わたしの手を握った秦くんは、この間よりも密着するように繋ぎ直した。

 これは、恋人繋ぎ……というやつ……。
 顔がゆるんじゃうな。


 ……いけない、しゃんとしないと。


 一駅分上り方面の電車に揺られ、駅から五分ほど歩いたところに小さなカフェがあった。

 オープンの木札がかかってるけど、早めに着いたからお客さんはあまりいない。
 一番奥の、外にグリーンカーテンがかかっている席に座ると日差しが遮られて暑さが和らぐ。


 わたしはトマトの冷製パスタを選んで、秦くんはミートソースパスタ。あとは二人でわける用のサラダも。

 わたしの大好きな生ハムサラダ。秦くんもこれが一番好きなんだって。


「あれ、空はこれいいの?」

 サラダを生で食べたわたしに、秦くんがにんじんドレッシングをすすめてくれた。
 普段は生ハムの塩味だけで十分だけど、せっかくの外食だし、ちょっとつけてみようかな。


「じゃあ……」

 ドレッシングの入った瓶を受け取って、半分くらいなくなっちゃったサラダにかけてみる。
 恐る恐る口に入れて噛むと、口いっぱいに爽やかな甘みが広がった。

「気に入ったみたいだね」
「うん、すっごく美味しいよ。おすすめしてくれてありがとう」

 ドレッシングは味が濃いものって食わず嫌いしちゃってたのがもったいないくらい。
 もう一度ここに来たら、今度は最初からかけよう。


「これは俺も好きなんだ。だから、空も好きになってくれてうれしい」

 天使のほほ笑みに撃ち抜かれながらも、なんとかサラダを飲み込んだ。
 自分だけに向けられてる好きな人の笑顔がこんなにも心臓に悪いなんて……!


「お待たせしました、トマトの冷製パスタとミートソースパスタです」

 トマトとバジルが乗ったパスタ。メニューの期間限定欄の写真見て、絶対これ! って思ったんだよね。
 秦くんは何回か来てるけどミートソースパスタ以外は食べたことがないみたいで、店員さんに交換のための取り皿も持ってきてもらった。

「どうぞ」
「ありがと。空も、はい」
「ありがとう」

 一回の注文で二種類も楽しめるなんて……! 秦くんがシェアに抵抗なくてよかった!

「ん! お肉美味しい……!」
「サッパリした感じいいね。夏らしくて」
 この時期にあったかいパスタは暑くなっちゃうから、冬に来たらミートソースパスタ頼もう。



「「ごちそうさまでした」」

 食べ終わるころには十二時を過ぎていたので、結構お客さんが入ってる。

 まだ空席はあるけど四人席を二人で取っちゃうのも申し訳ないから出ることにした。

 お会計をして出ると、初夏の日差しで体温が二度くらい上がった気がした。恒温動物だからそんなことはないんだけど、七月であることを受け入れたくなくなるくらい、暑い。


 八月もあるんだから、そんなに張り切らなくてもいいんだよ?

 今朝の天気予報で日中は三十度超えるって言ってたし、日焼け止め塗ってきてよかった。


「空、どこか行きたいところある?」
「うーん……。あ! 今日は好きな本の発売日だから本屋さん行きたい!」

「椋の?」
「うん! アニメ二期制作決定記念の特装版なんだ!」


 ボイスドラマのCDがついてるって聞いたら高くても欲しくなっちゃうよ。

 近くにあった本屋さんでちょっとだけゆっくりして、帰宅した。
 お兄ちゃんに「初デートなのに早いな」って言われてハッとしちゃった。


 本屋さんじゃなくて映画館とかの方がよかったかな!?



 いや、秦くんも楽しそうだったから大丈夫だよね……?