「がんばれー!」
「負けんなよー!」
両サイドからそんな応援の声が聞こえてくる。
わたしは当事者でもないのに変に緊張してしまって、声どころか体さえ動かせなかったから心の中で何百回何千回と応援した。
一回戦目なのに相手は全国大会常連校。秀英学園からかなり離れている学校に飛び抜けて強いところがあるから、二枠しかない出場権を毎年一中と争っているんだとか。
あ……秦くん……。
キャプテン印のユニフォーム姿になった秦くんは、着ていたジャージのポケットから皮ケースに入った小さなお守りを取り出して胸にあてた。
ここからだとよく見えないけど、チームの人にからかわれてる……みたい?
わたしみたいに緊張してるわけではなさそう。
かといって油断してるわけじゃないだろうけどね。
やっぱりこういうのって場数をどれだけ踏んだかが大事なんだな……。
「相手チームおっきい人多いね……」
阿部さんがコートに並んだ五人を見てそう呟いた。
たしかに、気持ちを落ち着かせて見てみると高校生に見えるくらい身長が高い人ばかりだ。バスケ部目当てに経験者が越境したりしてるのかな。
ジャンプボールは秦くん。身長差は二十センチくらいありそうだったけど秦くんはジャンプ力で全てをカバーして背番号5番の人にボールを繋いだ。あの人がメインのアタッカーなのかな。
ディフェンスを軽々とよけて、ゴール下に入った7番の人へノールックパス。
まずは二点、と安心するヒマもなくディフェンスに意識を切りかえる。
相手は自分たちより大柄で一歩も大きいから、追いつくだけでも大変そう。
でもそこはしっかり対策済みで、セーフティラインに二人、ディフェンスが残っていた。
そしてパスカットからの速攻、スリーポイントが鮮やかに決まった。
だけど相手は全国大会出場校。ここから巻き返されてしまい、4クォーター目の試合終了残り三十秒の時点で44-46。
二点差で負けている。相手が相手だ、と言って観客席はあきらめモード。
「これもうムリなんじゃ……」
「あと三十秒しかないし……」
そんな声が聞こえてくる。
「っ……」
怖い。
でも、観客席がこんなんじゃ、選手だってイヤな気持ちになる。
声、出さなきゃ。
「秀英学園ファイトー!」
コートにいるみんなに届くように。
「空ちゃん……。秀英学園ファイトー!」
「負けるなー!」
わたしの声に阿部さんと斎藤くんが続いてくれて、それは観客席にいた他のお客さんにも広がっていった。
選手はまだ諦めてない。
それなら自分たちは精いっぱい応援するだけ。
「ファイトー!」
今こっちチームがシュートを決めたので、先攻は相手チーム。
なんとかシュートは止められているけど、同じようにこっちもシュートを妨害され続けていて、お互い決定打が打てていない。
「秀英学園がんばれー!」
残り一秒。秦くんが相手のゴール下近くからリバウンドしたボールを投げた。一瞬息が止まり、スパッという音が響く。
その直後に鳴る試合終了のタイマー。
得点板はこちら側に三点、プラスされた。
47-46。
「か、った……?」
「空ちゃん! 勝ったよ! 勝ったんだよ!」
苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱きついてくる阿部さんのおかげで、これが夢じゃないってわかった。
まだ一試合目なのに決勝戦を見たような感覚がする。
「やったー!」
現実に戻ってきたわたしは阿部さんと抱きあって喜んだ。自意識過剰かもだけど、勇気を出してよかった。
あそこで声を上げられなかったら、勝ち負けに関係なく、絶対後悔してた。
その後も秀英学園の快進撃は止まらず、決勝戦で当たった一中にも一点差で勝利。
勝ってほしい、という気持ちの中にあったドス黒い感情もいつの間にかなくなっていて、純粋に応援していた。
帰りのホームルームが終わってすぐに教室を飛び出して、部活がない日も走り込みをする秦くんは短い間だけど見てきたから。
その努力が報われてほしいって。
そう思ったからこそ、少しでもヨコシマな気持ちを持っていた自分が恥ずかしい。
みんなで秦くんに会いに行こう、と誘われたけど今は合わせる顔がない……。
それに、会ったら好きを諦められなくなるかもしれないから。次の登校日におめでとうって言うだけにしておくよ……。
「そっかぁ……。じゃあ、あたしたちはミーティング待って突撃するから気持ち変わったら来てね」
「うん」
事情を説明するときに阿部さんには話してある。わたしは秦くんのことが好きだけど、秦くんには別に好きな人がいるってことも、阿部さんは知ってる。わたしが秦くんを諦めるつもりってことも。
だから、深く追及されなかったのはありがたかった。
本当は一番におめでとうって言いたい――なんて思う日が来るとはね……。
結局わたしは変われてないなあ……。肝心なところで引いちゃうクセ。
あのときも逃げちゃったし、今だって。
「牧野……?」
そう、ネガティブな思考にはまっていたわたしは背中から聞こえてきた自分の名前に振り向く。
そこには、小学二年生以降、目すら合わせられなくなった康太くんがいた。
