三日間の期末テストが終わり、秀英学園は一週間、採点期間休みに入った。
「あ、空ちゃーん! おまたせ! 待たせちゃってごめんね」
「ううん、全然待ってないよ」
わたしはクラスで一番話す女の子友達、阿部さんと一緒に秦くんの練習試合を見にきていた。
今は八時前。
試合は十時半からだから大分早い。
それもこれも、わたしが秦くんにお守りを渡せていなかったから。
諦めが悪い女だってわかってるけど、自覚してしまった恋心は簡単に捨てられなかったんだ……。
でも、お守りをずっと持っているのは余計に悲しくなるし、個人チャットで言って秦くんに時間を作ってもらった。
八時くらいに体育館の裏に来てほしいって言われていたから阿部さんに事情を説明して急いで向かった。
「秦くん!」
時間前なのに、秦くんはすでにいた。呼び出しておいて遅刻するなんて……。
阿部さんとの集合時間よりも前に行くべきだった。
「待たせてごめんなさい!」
「ううん、平気だよ。俺も来たばっかだから。どうしたの?」
「あ、あのね」
汚れないようにケースに入れたお守りを渡す。自分の気持ちを自覚したせいで告白してる気分になる。
「これ……」
「その、秦くんが勝てるようにと……」
「…………」
恥ずかしさから尻すぼみになるわたしを見て秦くんは目を丸くした。
て、手作りは重かったかなぁ……!
「空」
「ひゃい!」
か、噛んだ……。
恥ずかしさがどんどん上書きされていく。
「ありがとう。これがあれば何百戦でも勝てそうだよ。見てて。優勝するから」
「う、うん! 応援してるね!」
爽やかで柔らかい笑顔としか見ていなかったはずの表情ひとつでドキドキしてる。今も昔も顔は同じはずなのに。
「はたー! まだかー!?」
ふわふわとした思考の中にいたわたしはそんな声で我に返った。
バスケ部の人たちが秦くんを探してる。
「改めて、ありがとう。ほんとにうれしいよ。それじゃ」
「うん」
ジャージのポケットにお守りを入れて、秦くんはみんなのところに戻っていった。
わたしも阿部さんの待つ体育館の観客席に向かう。
「空ちゃん、渡せた?」
「うん! 待っててくれてありがとう」
「じゃあ、朝ごはん食べながら練習見学しよっか」
観客席は選手も使って、そこでお弁当を食べたりもするから飲食OK。
ゴミはちゃんと持ち帰るっていうのと食べ散らかさないっていうのが条件ではあるけど、そんな当たり前のことは言われなくてもやる。
事前に話し合ってお弁当を作ってきた。わたしがおにぎり弁当で、阿部さんがサンドイッチ弁当。
おかずの交換がしたかったんだって。
アレルギーも好き嫌いもないみたいだから交換しやすそうなおかずをお母さんに教えてもらいながら作ってみた。
料理からするのは初めてだったからちょっと不格好だけど、ひどい焦げ方とかはしてないから美味しく食べられるはず。
「ふぉぉぉ……! 美味しそう!」
全部二人分作ってきたから、なんでも好きなものをどうぞ。
「えっと……卵焼きと、からあげと、ほうれん草のおひたしと……」
キラキラした目でわたしのお弁当箱をのぞく阿部さん。かわいい……いやされる……。
「ありがとう、空ちゃん! あたしのもどーぞ!」
「じゃあハンバーグと……」
数分後、お互いのおかずを交換し終わった。阿部さんはホクホク顔、多分わたしも同じような顔をしてる。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
まずはもらったカツサンドから。野菜がみずみずしいのに、衣のカリカリ感が失われていない。たまごサンドもわたしが作るものよりも重たくなくて、いくらでも食べれちゃいそう。
至福……!
「あれ、牧野さんに阿部さん。二人も来てたんだ」
「まだ九時なのに」
幸せを噛みしめていると、後ろから声をかけられた。先頭にいたのは神田くんと斎藤くんだけど、桐谷くんや他のA組メンバーもいる。
「ぼくも食べたい」
わたしの隣にストンと座り、斎藤くんがおねだりしてきた。
斎藤くんは緊張しがちだけど、一回慣れたら子供っぽいところ見せてくれるんだよね。
人によっては、あざといと思う気がするけど入学から三ヶ月。人のお弁当を欲しがる斎藤くんは日常の一コマになりつつある。学校では給食だけど、勉強会はお弁当持っていくからね。
「どうぞ。こっち側のだったら食べていいよ」
「やった。ありがと」
ピックとお弁当箱を渡すとタコさんウインナーとブロッコリー、アスパラのベーコン巻きがなくなった。
前も同じラインナップでお弁当を分けたような気がする……。今度からこの三つだけ二人分詰めてこようかな。
「椋は相変わらだね」
斎藤くんの隣に腰を下ろした神田くんがペットボトルのお水を渡す。秦くんの幼馴染というだけあって、普段は秦くんがお世話をしているんだけど、今や神田くんもお世話係だ。
末っ子らしいのに面倒見がいい。
斎藤くんの自由さは、さすが一人っ子というべきかな。
「ごちそうさまでした」
パチンと手を合わせてお弁当をカバンにしまった。
一時間くらい残っていたけど、前の方の席で秦くんたちの練習を見ていたらいつの間にか開会式まで済んでいた。ギリギリまで朝ごはんのお弁当を食べていた阿部さんも、もう食後のデザートに入っている。
ただ、トーナメント表を見る限り秀英学園の一試合目は十二時くらい。
一試合目は二つに分けた体育館の入り口側で行われるみたいなので、それまで他校の試合を見学する。
バスケのルールは全くわからないけど、統率力のあるチームの試合を見ると圧倒される。
それが青葉一中で、キャプテンの背番号をつけて指示を出しているのが康太くんっていうのはすごく複雑だけどね……。
一中は全国大会出場歴があるだけあって、一年生主体の試合でも五十点以上の差をつけて試合を終えた。
スリーポイントシュートがポコポコ入るのと、長い間相手にボールを持たせないディフェンス力、咄嗟の判断が早いアタッカーが多い気がする。
「めっちゃ強そうだね……」
「うん……」
「一中って言ったらバスケ全国常連校だからなー」
「で、でも宗介がいるなら互角には戦えるはず……!」
他校の試合を見ながらやいのやいの言っていると、秀英学園の一試合目が始まった。
