恋愛初心者①〜落とし物から始まる恋〜



「空」
「あ、秦くん」

 教室に戻る途中、秦くんに声をかけられた。少し息が切れているからもしかして探してくれてたのかな。
 クラスで集まるって話は聞いてなかったけど、急遽みんなで食べることになったとか。


「一緒に食べてもいいかな」
「……? 二人で?」

「うん。ダメ?」
「ううん、いいよ」
 なにか話したいことでもあるのかな。



 ――と思ったけど、特になにかあるわけでもなく、二人で雑談しながら食べるだけで終わった。


「障害物競争、一位取るから応援してて」
「うん! もちろんだよ!」

 阿部さんや神田くん、桐谷くんも2に出場する。斎藤くんと一緒に、一番見やすいところで応援するつもり。



「そっか。椋なら安心だよ」
「あんしん?」

 あの、さすがにもう校内で迷子にはならないよ? 最初は慣れてなかったから何回か授業に遅れちゃいそうになってたけど、もう六月だからね?

「なんでもない。行こっか」
「……? うん」



 へんな秦くん……。

「それじゃあ、がんばるから」
「行ってらっしゃい」

 お昼休みの途中だけど、秦くんは「障害物がアクロバティックだから」と準備運動をしに待機列の方に向かっていった。

 わたしは障害物競走の練習を見たことないけど、どのくらい難しいんだろう。
 阿部さん以外も参加するから、普通の人間にもクリアできる難易度なんだろうけど……。







 結果から言うと、予想は大ハズレだった。

 スタートした瞬間にそびえ立つのは八段跳び箱。転んだら危ないから着地点にマットはしいてあるけど、ジャンプ台はない。

 でも、一番走者の秦くんはそれを軽々跳びこえた。しかも今やったのって前転跳びだよね?

 そのあとに置かれた砂場の障害物も、走り幅跳びみたいにぴょーんって跳んじゃったし。

 腰くらいまであるハードルも、簡単そうに超えていて、「あれ? これって実は簡単なのかな」って思っちゃう。



「空、もうすぐ」
「うん……!」

 あまりの身体能力にビックリしている間に、秦くんはわたしたちの近くまで来ていた。


「がんばれ! 秦くん!」
「宗介ガンバ!」

 わたしたちと目が合った秦くんは笑顔で手をふり、二番走者の桐谷くんにタスキを渡して一位でゴール。
 桐谷くんも一位で神田くんに繋ぎ、阿部さんは最下位のクラスをよゆうで抜かしてぶっちぎりの一位。あれで全力じゃないの、どんな体してるんだろう。

 なんだか体育祭じゃなくて陸上大会を見ているような気持ちになってきた。


 そして、当然のように一位で終了。

 三年生の学年種目は創作ダンス。流行りの曲から、なんでその案が採用されたのか教えてほしい演歌まで、クラスによって違いがあって面白かった。
 ちなみに、演歌を踊ったのはA組。安西師匠のクラス。女子率が高く、みんなキレッキレのダンスを披露していた。演歌なのに。




 そして通常種目最後が、白兵戦。

 クラスカラーの防護服を着て、お腹側に駅伝みたいなゼッケンをつける。防護メガネとかマスクをすると、どれが誰だかわからなくなるからね。


 白兵戦用に作られた水鉄炮と、赤い色水の入ったボトルを数本受け取って定位置についたら試合開始。

 ルールは簡単。

 防護服に色がついた人の割合が大きいチームの負け。防護服が三色以上に染まったらその時点で試合に参加できなくなる。


 同じ10%でもA組とその他の組じゃ人数が全然違ってくるから、直撃しないように気をつけながら相手に当てていくのが理想的。当たったとしても、二色までにとどめないと。

 阿部さんや神田くん、秦くんに加えて、二、三年生にも白兵戦マスターがいるからわたしは練習のときよりも奇襲がしやすい気がするな。その白兵戦マスターの中には安西師匠もいた。


「空、今までの練習で俺たちが隠れ蓑になっていたから相手は多分、ノーマーク。頼んだよ」
「うん、まかせて」

 わたしは一年生チームで一番命中率が高い。目立たない容姿だからというのもあるけど、みんなが暴れてかき回してくれてるスキに落ち着いて背中を取れるからっていうのが大きい。


「一位取ろうね! 空ちゃん!」
「うん!」

 阿部さんとも気合を入れ直して敵陣を観察する。小声だけど、「赤い弾丸」とか「会長」とか聞こえてるから、A組は一年生チームの阿部さん、三年生チームにいる安西師匠が集中的に狙われるのかな。

 試合開始の空砲が鳴り、事前に話し合っていた通りに動き出す。


 みんなは当てることよりも近寄らせないことを意識して色んな方向に撃つ。わたしは照準を定めて、反射神経がいい人たちの背中を取る。

 三人くらいに色水をつけたくらいで背後から声が聞こえた。



「空っ!」

「は、秦くん!?」


 人数が多いからわたしを観察していた人がいたみたいで、背中を取られていた。
 そんなわたしを庇ってくれたのは、秦くん。でも、そのせいで秦くんは直撃してしまった。


「俺はもうこの色に一回撃たれてるから。でも、空は撃たせないよ」

 そう宣言した秦くんは、とてもカッコよかった。
 顔は防護メガネとかマスクで見えないけどね。

 相手が秦くんにひるんだスキに、狙っていた人を含めて色水を撃った。

 わたしを撃とうとしていた人は、もう他のクラスの人に撃たれていたみたい。B組の青とC組の黄色がついていた。

 そこに、わたしと秦くんの撃ったA組の赤が加わる。防護服に三色以上ついちゃったから一人、脱落になった。



「ありがとう、秦くん」
「ううん。でも人数が多い分、空が仕留めていることに気づかれ始めた。まだ数人レベルだけど、いつかは広がると思う」

「避けながら戦う?」
「いや、後ろは俺がやる。空は前からの敵に集中して。あと一分、耐え抜けば終わるから」
「わかったよ」


 背中合わせになってまだ赤い色がついていない人を重点的に狙っていく。途中で左右に阿部さんと神田くんも入り、わたしは無傷で白兵戦を終えた。

 阿部さんも無傷。目で追うのが難しいくらいのスピードで逃げながら撃ってたみたい。秦くんと神田くんは一色だけだから、減点数は多くない。


 先輩たちも多くて二色で、安西師匠は無傷だった。敵チームを盾にしながら立ち回ってたんだとか。さすが三年生。味方に庇ってもらったわたしとは大違い……。


 それでも。

「空ちゃん! いっぱい当ててくれてありがとうね!」
「こちらこそありがとうだよ!」

 わたしでも役に立てた。

「なかなかやるじゃん、宗介! 晴人もカバーサンキュー!」
「恐縮です」
「お役に立ててよかったです」



 ぶっちぎりで一位になったわたしたちは、学年をこえてハイタッチを交わした。

 阿部さんと安西師匠以外ともハイタッチ。もちろん、一緒に出たクラスメイトともね。

 秦くんとするのは少しだけドキドキした。目を合わせると庇ってくれたときのこと、思い出しちゃう。手を通じて心臓の音がバレちゃってないかな。



 閉会式でも、優勝打ち上げも、わたしは秦くんのことが頭から離れなかった。