妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「すみませんすみませんノエル様っ――ああっ!! もう終わってる!!」
 有能なノエル様は洗濯作業を終わらせてしまっていた。

 昨日とは一転して今日は快晴。
 きっちり絞られた洗濯物が夏の陽光に晒されている。

 どんな魔法を使ったのか、ぴんと伸びた衣類には皺ひとつない。
 本当に、ノエル様は何をやらせても完璧だった。

「あ。おはようセラ」
 ちょうど干し終えて屋敷に戻ろうとしていたところだったらしく、ノエル様は空の洗濯籠を両手に持っていた。

 ノエル様の傍にはいまだ猫の姿のままのユリウス様がいて、私を見ると少しだけ後退した。
 私が屋敷に来たときは思いっきり後退していたのに。進歩だ。

「おはようございます、ノエル様。ユリウス様。この度は本当に申し訳ございません……主人に洗濯をさせるなど侍女失格です……」
 私はノエル様の手から洗濯籠を取り上げて項垂れた。

「いいよ。たまには家事をするのも悪くない。それより、セラが寝坊するなんて珍しいね。何かあったの?」

 歩き出したノエル様は不思議そうな顔をした。
 表情筋が死んでいた昨日までとはまるで別人だ。嬉しい変化だった。

「その……少し考えごとを……」
 私はノエル様と並んで歩きながら曖昧に言葉を濁した。
 まさかリュオンのことばかり考えて眠れなかったとは言えない。

「もしかして伯爵家の養女になったことを後悔してる?」
「いえいえ、そんな、まさか!!」
 私は大急ぎで否定した。